ほぼ日 |
「タクト」を振るという動作をつくるのに
本職の指揮者じゃない春花さんたちが
自分たちのイメージを大切にして
作り込んでいった結果、
いちばん「らしい」ものができたわけですね。
現実に近いリアルなものごとが
ゲームにおけるリアルとは、違うこともある。 |
高野 |
例えばプログラムでも、リアルに、
ほんとうはこういうものなんだって
組んでしまうと、たぶん面白くないんです。
そうじゃなくて、
「そういう感じでしょ?」
っていうもののほうが、
リアルに見えたりするんですね。 |
春花 |
今回の絵にも、ちょっと通じるところが
あると思うんですよ。
例えばポケットから石を出すときに、
リンクがゴソゴソって動作をしながら、
「ここかな? あるかな?」
っていう表情をします。
けれどそれは多分、
本当の人間だったら、しないんですよ。
「僕は探しています」っていう顔を
しながら探し物はしないものなんです。
でもゲームでは、
何か探してるな、って顔してるとか、
そういうふうな仕草をしてるっていうのを、
ある程度ウソついてでも強調してやった方が、
いいんです。 |
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青沼 |
任天堂のスタッフは、
そういうことを
自主的にやってくるわけですよ。
だから、僕が想像して、
「こう作ってね」って命令したんじゃ、
ダメなんですよ。ぜんぜんダメなんです。 |
春花 |
青沼から、こういう感じのものを、
っていうオーダーがあったときに、
やっぱり僕の中で吟味して、
たぶんこういうことを求めてるんだろうな、
こういうふうに表現したら
わかりやすいのかな?って、
咀嚼した上で、出していきました。 |
ほぼ日 |
それがもっと若いスタッフにも、
同じように、少しずつある
チームなんですね。 |
高野 |
とはいうものの、基本的に、
ゼルダ作ってるスタッフはもう、
みんなオッサンばっかですからね(笑)。 |
青沼 |
いや、オッサン俺だけだろう。 |
ほぼ日 |
新人も、毎回参加していますよね? |
青沼 |
その間の世代的な開きと言ったらもう‥‥。 |
高野 |
普段の会話が通じないこともあります。 |
青沼 |
仕事してる上では大丈夫ですけどね。 |
ほぼ日 |
ゼルダ・チームには
女の子成分みたいなのってあるんですか?
“女性的なもの”が、あんまり表に
出てこないというか、
ゼルダは男の子チームって感じがするんですが。 |
青沼 |
いや、女の子いますよ。 |
高野 |
リト族(鳥の一族)の部屋は、
女性スタッフが作ったんですよ。
僕らは
「いちばん偉い族長の、子供のいる部屋を」
って、それだけしか言わなかったんですよ。
僕のイメージの中では
「ふつうの子供部屋」でしかなくて、
机とイスとベッドがあればいい、
それぐらいのイメージしかなかったんです。
でも彼女たちは、子供が住んでる部屋だから、
洋服ダンスもあって、
洋服もちゃんと掛かってるだろうとか、
そこがやっぱり女の子なんですね。
僕にはぜんぜん想像できなかった。
女性が手がけたことで、
ちゃんと生活感溢れる
部屋になったんですよ。 |
ほぼ日 |
嬉しいですね。 |
高野 |
子供が遊んでるようなオモチャも、
バッて並べられてたり、
「こんな感じでどうですか?」
って訊かれて、先輩としては、
「びっくり! 全然想像してなかった!」
といいたいところをおさえて、
「俺の想像して‥‥いた、ものだよ」とか(笑)。
ほんとうはぜんぜん想像できなかったんですけど。
女性ならではの感覚は、
いろんなところで活躍してるんです。 |
ほぼ日 |
これができたから、グワッて進んだぜっていう、
転換点はありましたか? |
青沼 |
目かな? |
ほぼ日 |
目!? リンクの目ですか? |
高野 |
ええ。まるで猫みたいな大きな目。
スタッフのあいだでは、
よく猫目、猫目って言われてたね。 |
春花 |
あの目を、もっと使おうって言ったのは、
宮本なんですよ。 |
青沼 |
「E3」で発表したときに、
海外の人たちは、あれをすごく
東洋のイメージにとらえたらしいんです。
しかもそれは猫の目に近い、みたいな。
今のリンクの目より、もう少し
ほんとうに猫目に近いような
目だったんですよね。
そこから始まって、
逆にそれをもっと使って、
目をもっと生きさせるような方向に
持ってこうよ、っていうことを、
宮本が提案したんです。
「そこまでいろんな人が、
目に注目するんやったら、
それをもっと使おうよ」っていうことで。 |
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ほぼ日 |
あの目を「生かす」方向が決まって
一気に進んだってことなんですね。 |
青沼 |
目がキョロキョロキョロキョロ
いろんなとこ動くっていうのを
入れたときに、ガラッと変わったよね。
でも、それも、たしかに宮本からの
提案だったけれど、
具体的にみんなに
「こうしてね」って話をしたわけじゃなくて、
いつの間にやら出来上がっていきましたね。 |
春花 |
そういうふうにみんなを動かしたのは、
宮本さんのプッシュが大きかったんですよ。
絶対やりなさい、ぐらいのプッシュだったもの。
そして、いままで出来ていたデータを
ぜんぶ「なし」にして、作り直すわけだから
けっこう大変やったんです。
でも「それは絶対やらなあかん」ということで、
数日潰して、それをひたすらやるような、
家内制手工業的な作業をしましたよね。 |
ほぼ日 |
数日で出来ちゃうのも、すごい。 |
春花 |
それができた瞬間ですよ。
みんなが「あららららら!」
みたいな、ことになって。 |
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高野 |
目を中心に、ネタはどんどん生まれたよね。
目を動かそうぜってことになったあとは、
たとえば“手紙を読む”という動作にしても、
プログラマーが自発的に
「これはやっぱり動かさなきゃ、
手紙を読んでるんだから、
文字がスクロールしたら、
リンクが読んでなきゃおかしいよ」
って言い出したりね。
そうすると表情もすごく豊かになった。 |
春花 |
状況によっては、向こうに人がいるとか、
ここに敵がいるとかっていうようなときに、
リンクの目が、勝手にそっち見るように
なっているんです。
リンクの目を通して、
何が起こっているのか、
その世界がどうなっているのかが
わかるようになり、
周りにあるものの存在感が、
グッと押し上げられたんですよね |
高野 |
僕も、スクリプトが書きやすくなりましたよ。
困ってるとか悩んでるという表現は、
ふつうは口とか眉毛とかで表現するんですが
さらに目が動くことによって、
あらゆるキャラクターが自発的に
しゃべり出すような感じがするんです。
例えば「妹を助けたのか?」って
ちがうキャラクターに訊かれたときに、
ふつうだったら、相手のセリフで
「そうか、妹さんは助かってないのか」って
言わせたりするんですね。
でも、その時、リンクの目が下を見て、
うつむいてしまったら、
相手には「同情する」って気持ちが生まれますよね。
すると自然に、相手のキャラクターが
「そうか、何も言うな」
って言う。
そんなふうにセリフが生まれてきたんです。
リンクの目の動きがなかったら、
説明的なセリフが多くなったでしょうね。
そしてプレーヤーにも、
リンクの表情を通して、
妹は助かってないんだなってわかる。 |
ほぼ日 |
そうか、リンクの目の表情が豊かなことで、
ほかのキャラクターも、生き生きしてくるんですね。 |
高野 |
ほかのキャラクターたちも、
すごく意識して
モーションを付けるようにしたね。 |
青沼 |
周りも、目を動かさなきゃ
いけなくなってくる。 |
高野 |
大げさなしぐさじゃなくて、
「目でわからせる」ってことだね。
目が動かなかったら
身振り手振りで作っていた大変な部分が、
ちょっとした仕草だけで
わかるようになったのは、よかった。 |
ほぼ日 |
リンクはプレーヤーにヒントを出してくれている
わけですね。
敵がどこの方向にいる、だとか、
目の表情を追えば、わかる。 |
青沼 |
そういう対話が、
プレーヤーとリンクの間に
生まれるわけですよね。 |
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高野 |
64のときそうだったんですけど、
リンクっていうと、
必ず背中を向けてるっていうものが当たり前でした。
目が動くっていうのがわかると、
カメラを前に持っていって、
俺がやってることは、合ってる?
みたいな感じでリンクの目を確認したり。
リンクが違うとこ見てると、
あ、違うとこがあるんちゃうか、
それがまたヒントになったりとか。 |
滝澤 |
というプレイをして欲しいですね。 |
ほぼ日 |
逆に、「プレーヤー=リンク」という近さが、
ちょっと離れる気はしませんでした?
リンク=自分じゃなくなりません?
自分の名前を付けたものの、
最初のうちは、ちょっと躊躇したりして‥‥ |
春花 |
そうそう。だいたい自分の名前を
付けますよね? そうすると、僕も、
やっててリンクの顔を見るんですよ。
で、リンクがいろんなとこ見るんで、
自分自身じゃなくなった感じが
するんじゃないかと気にはなったんですが・・・・。 |
青沼 |
目線を入れたときには、
確かにそれは感じたんだけど、
僕的には、もう、息子だと思って見てるもので。
(一同笑) |
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滝澤 |
でも、逆に言うと、
感情移入度みたいなのは
高まったと思いますよ。 |
青沼 |
自分と一体化しているものではない誰かを、
自分が操作するみたいな遊び方だね。 |
高野 |
しぐさが、自然だからね。
そういうときに自分だったらこう動くな、
というしぐさを、リンクもするんですよ。
それも、さりげなく。 |
青沼 |
自分がそこにいるわけじゃないですよね。
ゼルダの世界にいるのはリンクであって、
自分ではないってところが、どうしてもあるんです。
そこを一体化させるって、
もっともっと追求したら、
違う道があるのかも知れないけど。
逆にそこをバスッと切って、
そこにいるリンクが何を見て、
どう動いてるの? っていうのを、
自分で体感しながら操作するというのが、
ひとつの臨場感だと思っているんです。 |
高野 |
この子、どうにかしてあげなきゃ、
っていう気持ちになりますよね。 |
青沼 |
そうそう。だからそのリアクションを、
うまいこと自分が吸い上げてやらないと、
なんか悪いんじゃないかっていう
感覚になるとかね(笑)。
そういう感覚が出てきたところが、
間違ってなかったな、
っていう感じがしてます。 |
ほぼ日 |
それにしても‥‥みなさんの
モチベーションとかって、すごいですよね。
いいものにしようという気持ちが
全スタッフにあるじゃないですか。
それはやっぱり、ゼルダっていう
共通経験があるからなんですか。 |
青沼 |
僕らに限って言えば、
ほんっとにもうこの4人は、
「時のオカリナ」のときから
ずーっと一緒ですから。
もう、腐れ縁のように。 |
高野 |
そしてね、僕らだけじゃなくて、
ゼルダを好きでいてくれるファンのみなさんも
一緒なんですよ。
ファンの人にとっての「ゼルダ」を考えると、
とても大きいものだろうなと思うわけです。
僕はそういうプレッシャーが
すごくありました。
単純に続編とかっていうので、
まとめてしまうとダメだと。 |
ほぼ日 |
でも、そうだったら、
多分、リアル・リンクに
なってるんだと思うんですよ。
「ゼルダってこういうものだ」
という声をきいていたら。
でも、あえて、みなさんは、
リアル・リンクにしていない。 |
青沼 |
それは挑戦ですよね。
やっぱり、みんなが思うような、
普通のゼルダ作って返したって、
面白くないじゃないですか。
やっぱりこっちにも、
たくらみがあるわけですよ。 |
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春花 |
リアルなもの出したとしても、たぶん
「あ、やるのね、これ」っていう
スッ、てそのまんまスルーしていく
感じになってくと思った。 |
高野 |
逆に言ったら、そういうことができる、
任天堂って会社自身も、
僕らからしてみたら、良かったんです。
ここまで冒険をさせてもらえたっていうのも、
恵まれてると思いますね。 |
青沼 |
ゼルダっていうものが、
何でも内包できるものになっている、
という共通の思いがあるんです。
だから、どんな選択肢があっても、
ゼルダっていうゲームっていうのは、
変わらずにあるっていう部分が
あるんでしょうね、きっと。 |
春花 |
ゼルダを作るっていう部分では、
変わらないんです。 |
高野 |
ユーザーがホントに、
「ああ、やっぱりこれはゼルダなんだ」
って思ってくれたら、いちばん嬉しいですね。 |
青沼 |
うん、でも、そういうものにしてますけどね。 |
春花 |
けっこうそういう自信はありますよね。 |
青沼 |
僕ら、ゼルダを作りながら
遊ばせてもらってるんでしょうね。
作りながら遊ばなきゃ面白くないよ、って。
そのための第一歩っていうのが、
あの絵だったんでしょうね。
僕らもね、もう3回目ですから。
ゼルダを作るのは。
(一同爆笑) |
青沼 |
変革や、自分たちの問題定義を持たないと、
先進めないな、っていう部分もあるしね。 |
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ほぼ日 |
ますますみなさんがつくる次回作も楽しみですね。
ゼルダなのか、完全新作なのかわからないけど、
このチームが何やるんだろうとか、
このスタッフが何をやるんだろうっていうのが、
すーごい楽しみになってきました。
ところで、このあと、イトイと宮本茂さんが
対談をするんですけれども、
みなさんから訊いておきたいことって、
ありますか? |
春花 |
本音で? |
ほぼ日 |
本音で。 |
高野 |
最初に絵をみたときにどう思ったかっていうの、
聞きたいですよね。
マジで、どうだったのか、と。ね?
じつは僕と滝澤、両方とも、結婚のとき
宮本に仲人してもらいまして。
挨拶で自宅に行ったときも、
やっぱり仕事のことがすごく気になって、
「あの絵は、どうなんですか?」
とかって(笑)。奥さんの前で
訊いた憶えがあります(笑)。
苦笑いで「いいんじゃないの?」って
言ってくれてたんですが‥‥ |
ほぼ日 |
ホントはどうか? |
高野 |
うん、ホントはどうなの?
って訊いてみたいですね。 |
ほぼ日 |
それとも、あ、正解が出たなって思ったか。 |
高野 |
訊いてください。
「アイタタタ」でも
「やってくれるわ」でも
スタッフとしては知りたいところですよね。 |
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ほぼ日 |
「僕は好きだけど」って言ったらしい、
とか、ちょっと聞いたんですけど。 |
滝澤 |
「だけど」がコワイ! |
ほぼ日 |
リアル・リンクを求められてる現状とかを
考えつつおっしゃったのかも。 |
高野 |
京都の人間だから、
隠してるんじゃないかな、って(笑)。
ブブ漬けでも、って感じで(笑)。 |
ほぼ日 |
わかりました、訊いてみます。
本日はどうも、ありがとうございました! |
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