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いよいよ『ゼルダ』がやってきた!

 




ほぼにちは、5回にわたってお送りしました
darlingと宮本茂さんの対談、
いよいよ最終回となりました。
約2時間の話のなかで、
二人は「いま」の立場を照らしあい、
人を育てるということ、
何を根幹にしてクリエイティブで
あり続けるかということなどを話していきます。
最後まで、スリリングですよ! では、どうぞ。

糸井 今、大はやりの
マーケティングっていう概念って
任天堂はどんな風に考えてるんだろう?
任天堂はって言うか、宮本さんは?
ターゲットとかって意識する?
宮本 ない。
なんでかなあ。
一般論としてマーケティングっていうのは
保守的なものなんで
全く耳を傾けるつもりがなくて。
逆にマーケティングで作ったものには
ろくなモノがないっていうのが
元々の持論なんでね。
けど、今は作ってから
マーケティングするんですよ。広告のために。
糸井 どう伝えるかのために。
宮本 それを読んでると凄い役に立つ。
自分らが想定したモノを
お客さんがどう見たかっていうのは
凄い役に立つ。
糸井 うーん。
宮本 それが実は次に反映してるんですけど、
どう誤解があったかっていうのが
反映してるだけで、
何を求めてるかっていう部分は全然無視!
マーケティングのデータは全く無視なんで。
糸井 どう誤解があったかね。
宮本 どう誤解されたか、
どう伝わってないかっていう。
作った後のモノをマーケティングすると、
なんだかんだ言いながら
僕らまた頭だけになってるなっていう、
体がついてきてないっていう感じが
わかるんですよね。
昔から結果論としてではあるんですけど、
東京ローカルって僕は言ってて。
東京で流行ってるものを作ったら
世界では通用せえへんよ、
っていう考えを持っていたんですけど。
どんどんここに来てゲームが売れなくなって、
漫画雑誌とタイアップしてとか、
テレビアニメと一緒にとか、
ミニモニ。が出てきてとか、
それってやればやるほど
世界に持っていけなくなりますよね。
自分が作るものに関しては、
そういう興味がないし、
マーケティングはしてないんです。
データは見てますけどね。
それは役に立ってる。
どのぐらいみんなが
こっちを見てるかってことに関してね。
糸井 風向きみたいなのは、わかるよね。
宮本 うん。
糸井 逆風があったじゃないですか。
あの経験はどうですか?
対抗するプラットホームが、追い抜いたこと。
「運もツキもない。今は」っていう時代に
宮本さんはわりと平気な顔してたんだけど。
宮本 あまり変えてないですね。
もっと気にしないと
ダメなのかなと思いますけどね。
糸井 そん時もそう言ってたよ。
宮本 周りはどんどん変わってるんですよ。
そのことに鈍感なのは
確かによくないと思うんですけどね。
唯我独尊で作ってたものが当たるから
“化ける”わけであって。
糸井 かと言って
アートをやってるつもりはないんですよね。
宮本 ないですね。
‥‥あのね、難しいな表現が。
糸井 ここはね、難しいんだよ。
宮本

昔、メーカーのものを買うと
製品なんやから安心って思ってたんですよ。
学生の頃は。
自分が会社に入って
自分が作ったものが製品として
出ていくのを見て、
メーカーのモノって安心できへんやんって。
よその作ってるゲームは
ライバルで凄いぞって思うんですけど、
じゃあ誰が作ってるのって考えたら、
実は人が作ってる。
ゲーム業界の中にいる人達って
どういう人達なのかって考えると、
みんなどんぐりの背比べよって思うんですよ。
そん中でその人達と戦うために、
なんとなくこういうのが
流行ってるって言われたり、
マーケティングで
こういうもんが欲しいって言われるものを
作ってたって大差ないわなって思うんですね。

糸井 人が見えて分かることですよね。
会社だと思うとわかんないですよね。
宮本 特にビッグタイトルになったら
なんか蒙古軍が攻めてくるぞみたいな
みなパニック状態になったりするわけですよ。
現場でもね。
糸井 凄いらしいですよとかね。
宮本 けどそんなことより、
自分らの仕事をちゃんとする方が大事なんで。
ということを強調せんと。
いやムービーぐらいついてないと
ダメでしょうとか、
いうふうになるわね現場はね。
ディレクターなんかは特に、そうで。
基本的に怖がってんので、
よそにあるモノは全部欲しい。
さらにその上で自分のものを
入れたいっていうわけで。
プロデューサーの立場としては、
よそにあるもんなんて
忘れた方がいいんと違うって
日々言わなあかんわけですよ。
糸井 そういうのは、
もう宮本チームは
なくなってきてないですか?
うわー大変だ大変だみたいなのは。
宮本 やっぱ、ありますよ。やっぱりある。
そんなビクビクして作ってたら
面白くないやろうって言うんですね。
糸井 情報を、遮断したら上手くいくと思いますか?
宮本 いや、遮断はないですね。
自分のエネルギーは有限なんで、
それをどこに使うかをわかることが大事です。
そのためには人の強みとか
弱味とかは見てないといけないんですよね。
情報はいると思うんです。
そんなになんとかさんのが
良かった言うなら
なんとかさんの子になりなさいって
言うのと一緒で…(笑)
もう最後親はそれしか言うセリフないわけで。
糸井 ない、ない、ない。
さっきの苗字の問題だよね。
宮本 大人としてどういうスタンスで
生きるかという問題ですから。
糸井 イヤなら食うなとかな。
宮本 当たり前のことをね、
なかなかスタッフに理解させるのに
骨が折れると言うか、
何度もそういう話をして。
糸井 それは、単になだめてるだけ
っていう時間も含めての、
付き合い方ですよね。
宮本 いやお前は凄いから
これを作ってて負けるわけがない、
とか励ましたり。
堂々とやればええからとか。

糸井 なんかスポーツチームみたいだね。
宮本 いやあ、そうですよ。
満塁で肩が暖まってないのに
いきなり出てきたピッチャーみたいな
ことが多いんで…。
糸井 そうだよね。要するに何かを変える時ってのは、
前が良かったから変えるってことはないからね。
必ず苦境に立った時に
チェンジがあるわけだから…。
それは予定通りなんだよって
言われて臨めばいいんですよね。
お前そういう時のためにいるんじゃないか、
あっはっはってね。
うち(ほぼ日)はビビんなくなったね、
そう言えばね。
宮本 それは、作り続けてるから。
糸井 あっそう。そうです。作り続けてる。
毎日っていうのが良かった。
宮本 僕らは、毎年3本くらい作り続けているけど、
ディレクターは2年か3年に1本なんで、
すっごい入ってしまうんですよ。力が。
ま、そこがプロデューサーの仕事というか。
糸井 よくさあ、気休めみたいに
命まで取られるわけではないって
言葉があるけどさ。
あれを本当にそう思う時ってあるからね。
今度はもうちょっと楽な話でさ、
作ってる時の喜びは
もう十分わかるんですけど
出ちゃってから、何が嬉しい?
宮本 出てからねえ。
糸井 あんまり嬉しくないってのもあるよ。
宮本 出てからはあんまりないんですよね。
糸井 やっぱり。
宮本 スタッフの機嫌が治るのが嬉しい。
あれって。やっぱりね、
上手くいったプロジェクトは後がいいですよね。
リカバリーが。
尾を引くやつはつらいですよね。
そういう意味では
売れるっていうのが基本なんですけども。
口を酸っぱくして言うんですけど、
今の人達ってほら、
僕も基本的にはそうなんですけど、
嫌われたくないし、
あんまり好戦的ではないんで、
平和を望むんですけども、
結局、民主主義になって
そういう人達って最後、
失敗した時に逃げるんですよね。
だからやっぱり失敗しないってことに対して
一番責任を持って動いてる人が
絶対いると思うけど、
けっこう苦手な感じ。
今の人達、若くなればなるほど、
苦手なんですよ。
だから凄い人当たりのいいディレクターは
いるんですけど。打った後の責任まで
ちゃんと持ってる人っていうのは、
なかなか見つかりにくくて。
糸井 僕、ゲーム会社やってて
本当に嫌だと思ったのはそれだもん。
みんなでかばい合うじゃないですか。
あれが嫌で嫌でしょうがなくて。
あいつもいいとこあるんですよ。
って必ず言うよね。
お前、それでお前にかかってる負担だぞって。
オレはなんかもっと辛いぞみたいな。
宮本 上手くいってないプロジェクトでね、
それやられるとね。
そんなこと言ってるからあかんねん。
糸井 やっぱり学級委員会みたいですよね。
学級委員会って
政治のひな形を持って来て
選挙やったり何かしてるけど、
目標もなければ義務もないじゃないですか。
だからかばい合って仲良くやってくと
時間が過ぎてけば終われるんですよね。
だけど、僕ら仕事だから
答え出さないといけないわけで。
答え出す時にあいつもよくやってるんですよって
言い合ってたら何も動かないんで。
それをじゃあ、
全部オレが片付けるっていうのは
もうできないサイズになってますからね。
やっぱり暴走族上がりのやつを使うべきだね。
僕も前に人に聞いたんだけど、
なんでけんか強いんですかって言ったら、
僕はいつも断崖絶壁が後ろですから
前に行かないと落ちるんですよって。
それをしゃあって言った時に
この人は本気にそういうことばっかり
やってたんだなって。
暴走族系の子ってそうじゃないですか。
好きでやってるんだけど
命張ったことがあるっていうか。
宮本 うち弱いんですよ。
僕もぼっちゃんだし、
ほとんどいないんですよ暴走族系ね。
糸井 なんで宮本さん、ぼっちゃんの割には…。
いっぱい作ったからですかね?
宮本 そうじゃないですかね。
売るのが前提ですからね。
糸井 宮本さんの中で
失敗って作品はあるの?
宮本 過去にもやっぱり
そういうのはいくつかありますよ。
そういうのにかぎって
「宮本さんあれはもったいない」
って言われるんですよ。
「後2ヶ月直さなきゃ」
みたいなこと言われるとね、
分かってんねんけどね‥‥
分かってんねんけどやっぱり‥‥

糸井 しかし、宮本さんのゲーム評って上手いよねぇ。
「このゲームは、
 根本的にはいいんだけども....
 味付けに失敗してるから
 商品としてはダメだったんです」
とか言うでしょう?
いいところ見つけるのが上手い。
物凄く見てますよね。
僕、今でも覚えてるのは、
「カービィ」ですよ。
「カービィ」が
「ティンクルポポ」っていう
別のゲームだった時に、
「これは面白いんで、
味付けを変えたらいけると思うんですよ」って、
いったん発売中止にさせたんだよね。
そこから無理矢理のように立て直しましたよね。
いつのまにか、「ティンクルポポ」ってゲームが、
「星のカービィ」に変わっちゃって発売された。
あれ画期的だったと思うんだよね。
オレその現場にいたんだよね。
宮本 内容はほとんど手を入れてないんですよ。
糸井 一時は任天堂が不作の時に
「スーパードンキーコング」が
つないでくれたじゃないですか。
あれだって宮本さん、
可能性を感じたわけだよね。
宮本 僕、さりげなくいい仕事してるんですよ。
ポケモンもカービィも。
糸井 ああいうグランドプロデューサー
みたいな仕事多いよね。実は。
シムシティ、テトリス。
いいとか、悪いとかって、
いい悪いの基準が「一覧表」になって
存在してるわけじゃ
ないじゃないですか。
どうしてそのあたりのことがわかるんですか?
宮本 それ、何やろなー?……それ、
作者……やっぱりこだわりやと
思うんですけどね。
その商品の持ってるこだわりの部分に、
共感するんでしょうね。
糸井 何が面白いか、すぐわかる、
っていうあたりに、
やっぱり大ヒットはあるよねー。
宮本 すぐわかる。
しかも、発明をしてやろうと
思てる人が共感するというか。
うまいことやりやがったな、
と思う部分っていうのが、あるんですよ。
その要素だけいただいて自分の作品をつくる
方法もあるかもしれないけど、やっぱり
もう今さら俺がやれへんよな、
って思たときに、
育てたらええのにな、って。
だから、自分がやりました、
という作品では絶対ないですよね。
それをどうやったら売れるかっていう。
糸井さんが昔若いころに、嵐山光三郎さんかな?
か誰かに、食事をご馳走になって
「君、すごいいいよ」
って言われたことがあるんで、
そろそろ自分もそういうことをする年かな、
と思ったって(笑)。
ああいう感じかな?
僕が作るんやないけど、
君、すごいええよ、って。
糸井 その仕事は大事だよ。
言われたやつは、
ちょっと自信あるやつに決まってるんですよね。
ところが、そのまんま「いいやっ!」て
思っちゃうんですよね。
そんときに、「いいに決まってる」って
もう1回念を押されたらね、
いい方に行くに決まってるんですよ。
いいタイミングでよそのオジサンから
褒められるっていうのは、いいことだよね〜。
「オジサン」っていう会社作ってさ、
褒める会社作ったら?
宮本 それはスゴクイイ!!
こないだ結婚式のスピーチでね(笑)、
いかに僕、嫁さんをおだてることが
下手かっていう話したんですけども(笑)、
現場の連中も来てる前でね、
いや僕も、任天堂ではすっごい
褒めてもらって育ったんですよね、って。
先輩にはすっごい褒めてもらって
育ったけども、後輩褒めてないんですよ。
だから、ちょっとはね、
褒めてやらなあかんなと最近思てます、
っていう話をしたんですけど(笑)。
うん、やっぱり、大事ですよね、
褒めるっていうのは。
あるプロジェクトが難航したときに、
できあがってから、スタッフに聞いたんです。
「僕は何がいちばん役に立った?」って。
できないんじゃないかって思てたときに、
これは完成できるよ、って言うたのが
すっごい助かった、って言うんですよ。
心の支えになったって(笑)。
糸井 それは大事ですよね。
宮本 ですよね。
糸井 んーっ!
宮本 ですよね。
経験ある人に太鼓判を押して欲しいっていうか。
それだけですごい元気になれるっていう。
糸井 よく言うじゃないですか、
野球チームでさ、
優勝経験のある選手が混じってるの大事だって。
宮本 僕はね、よく考えて作っている人には
「こんな頑張らなくても
 すごいもんができる」って。
これ以上頑張ったら、
とんでもないものになるよ、
って言うんですよ(笑)。
甲子園行くときは、
負けるかもわからんって言ってて。
でも相手は、やっぱり同じ高校生で。
糸井 ものすごい差があるっていうことが、
たまーにあるけれども。
宮本 ほとんどがないですよね。
糸井 ないですよね。うん。
宮本 それを見てると、
不安の方に心を使わないで、
クリエイティブな方に使おうよと(笑)。
糸井 不安の方に心を使った分だけ、
クリエイティブの量が減りますよね。
前に行く力がね。
何でも欲しがる人用のサービスをすると、
それしてる時間と、その能力が、
いい方作る力がなくなるんですよね。
だからやっぱりいいとこ伸ばすっていうのが
自分たちなんだ、うん。
宮本 そうですね。
糸井 じゃ、あと、質問みたいなのがあったら……。
ほぼ日 話がうんと戻りますが、
青沼さんからなんですけど、
青沼さんがご自身で、
この宿題を解決できないまま
進んでしまったという
反省を込めての質問なんです。
「タクト」を操作するときに、
左右のアナログ・キーを左右に動かす。
それでリズムが変わりますと。
で、これにですね、
上下に入れると音の大きさが
変えられるというのを、
宮本さんが必ず入れて下さいとおっしゃった。
それが、どうしても生かしきれなかったと。
宮本 それは青沼が反省しなくていいです。
僕が入れるべきネタだったんですよ。
それぐらいなネタは足せると思ったんですよ、
自分で。ところがやっぱり、
あまりにも仕掛けが多かったので、
もう必要ないかと思って、
複雑になるのでやめたんですよ。
本当はね、たとえばライオンが寝ている部屋で
大きな音で演奏すればライオンが起きる、
なんて仕掛けをしたかったんです。
あるいは、向こうの人が、
「シーッ」て言ってるので、
音量しぼるっていう技を使ったら解ける、
っていうのを考えてたんですけども。
遠くの人には音量を上げると届くとか。
けどね、そんなことしなくても、
いっぱいイベントが仕掛けられたので。
糸井 面白そうじゃん。でも、
それを入れ込んだら
ちょっと複雑にはなってたんだろうな。
ゲームさ、音楽で使う以外の耳の使い方って、
ホント少なかったじゃないですか。
僕、「MOTHER」やるときもさ、
耳から、っていうのを使ってたんだけど、
もっと来るよね。
ラジオ・ドラマが成り立つんだもんね、
世の中ね。
宮本 ゼルダ、ステレオでやってると、
後ろに敵が来たのがわかりますよ。
ドルビー・プロロジック・ツーですね。
糸井 5.1チャンネルをつなぐっていうこと?
あれね、カミサンに片づけられちゃうんだよ。
一同 (爆笑)
糸井 ‥‥それじゃ、そろそろ東京に帰ります。
今日はどうもありがとうございました。
また、お話しできるのを楽しみにしています。
宮本 僕もです!
いやあ、しゃべっちゃったなあ。
どうもありがとうございました。
またね、糸井さん。
(おわり)

今回で、宮本さんとdarlingの対談はおしまいです。
たくさんの方が読んでくださったようで、
非常に嬉しいです。
ゲーム・ファンのみなさんだけでなく、
宮本茂さんというひとりの
とてつもないクリエーターのことを
より深く、知っていただけたのだとしたら、
さらに、嬉しいです。

ではまた次回!
「いま話題沸騰の」あのハードについて、
ほぼ日は取材しています。
どうぞお楽しみに!
(わりとすぐに更新する予定!)

撮影協力:
THE RIVER ORIENTAL KYOTO
http://plandosee.co.jp/tro/

この座談会は、鴨川沿いの大きなレストラン
「ザ・リバー・オリエンタル・キョウト」で
収録されました。
昭和初期の巨大な木造建築は、
もともと豪奢な割烹旅館「鮒鶴」だったもの。
アジアのリゾートふうのしつらいを加味し
レストラン、バー、パーティールーム、
結婚式もできる教会などをもつ施設に
生まれ変わりました。

京都市下京区木屋町通り松原上ル美濃屋町180
Tel. 075-351-8541
Fax. 075-351-5688
阪急河原町駅より徒歩6分、
京阪五条駅より徒歩3分、
JR京都駅からタクシーで約10分

営業時間:
ブライダル 10:00〜20:00
レストラン 17:30〜23:00
バー 21:30〜03:00
2003-01-15-WED