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本番前のお忙しいところすみません。
きょうはよろしくお願いします。 |
堀尾 |
こちらこそ。
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── |
ぼくら、一般の観客としてお芝居や映画が好きで、
ちょくちょく観にいっては、
わいわい騒いで勝手な感想を言い合う
「ほぼ日感激団」という記事をつくってるんです。
感激団の感激は、「観劇」じゃなくて
「感激する」の「感激」でして。 |
堀尾 |
はい、なるほど。 |
── |
その企画で最初に取りあげたのが、
『朧の森に棲む鬼』でした。
さらに糸井重里が、
立川志の輔さんの『歓喜の歌』を
絶賛する文章などを書いていましたら、
読者のかたからメールが届いたんです。
「みなさんが観ている舞台は、
同じ人が舞台美術をやってるんですよ」って。
調べさせていただいたら確かにその通りで。
これはもう、ぜひお話をうかがいたいと。 |
堀尾 |
ああ、そういうことでしたか。 |
── |
まずは、
せっかくですので、志の輔さんの、
この舞台のお話からうかがいたいのですが、
そもそも志の輔さんとは、いつごろから? |
堀尾 |
たぶん、6年くらいになりますかね。
最初はこのパルコ劇場でやられたときは、
志の輔さん、自腹を切って上演してたんですよ。
それが2年ほど続いたときに、
パルコさんの主宰になりましてね、
じゃあ舞台セットにも専門の人を
ということになって声をかけてもらったんです。
「2008年パルコ公演より 撮影:橘蓮二」 |
── |
落語の舞台を。 |
堀尾 |
ええ、私はオペラや演劇が専門ですから、
ほんとに自分が必要なのかと思いました。
でも志の輔さんから、
なんで舞台美術家が必要かを言われたんです。
立川流の落語家さんたちは、
寄席で落語ができないでしょ。
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── |
はい、そうですね。 |
堀尾 |
落語をやりたければ場所を見つけなきゃならない。
見つけたら今度は、そこをどういう空間にするかを
考えなきゃいけない。
そこを手伝ってほしいと言われて、
「それなら、役に立つかもしれませんね」と。 |
── |
空間をつくるという意味では、
演劇と同じなんですね。 |
堀尾 |
まあ、落語の場合やりすぎは駄目なんですけど。
たとえば‥‥
「クリスマスのプレゼント」が出てくる
噺があったんですが、そのとき志の輔さんには、
「鹿を出す」っていう発想があったんです。 |
── |
鹿、ですか。 |
堀尾 |
ネタが終わると、うしろのドアがすこし開いて
雪が降っていて、鹿がいて、
落語の中に出てきたプレゼントが
ふと置いてある。
数秒だけそれをみせて、パッと終わるんです。
「2006年パルコ公演より 撮影:橘蓮二」 |
── |
へえ〜。 |
堀尾 |
その、ちょっとだけのために、
果たしてぼくが必要かって思いましたけど(笑)。
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── |
仕事量が少なすぎて。 |
堀尾 |
詐欺師みたいだなと(笑)。 |
── |
いやいや、
堀尾さんはいつも大掛かりな舞台をつくるので
とくにそう感じられただけでしょう。 |
堀尾 |
でもまあ、大きいのをつくるときも
やっぱり詐欺師みたいなもんです(笑)。
いかにこう、演出家を騙すか。
たとえばこの舞台だって‥‥これ黄色いですよね?
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── |
はい、黄色いです。 |
堀尾 |
去年までは落ち着きのある赤茶色だったんです。
ところがことしは映像を映したい、と。
赤茶だと映像が写りにくいんですよ。
ふつうならスクリーンをおろせばいいんですが
それじゃ当たり前でつまらない。
舞台いっぱいにポーンと映像を映したくて、
黄色ならそれができるんです。
それでぼくは志の輔さんに、
「ことしのテーマカラーは黄色です」って言ったら
志の輔さん、びっくりしてね。
「うーん、黄色は‥‥」って(笑)。
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── |
黄色はだめだと? |
堀尾 |
前例がないんですよ。
黄色い舞台で落語の噺をしても、
場面に溶け込めないんじゃないかと、
そういうことをおっしゃったと思います。 |
── |
志の輔さんは、大胆なことを
どんどん受け入れるかただと思っていました。 |
堀尾 |
いや、志の輔さんは、
落語の世界では異端児かもしれませんが、
それでも最低限の落語のルールというか、
やはり様式の中で遊ぶことを
たいせつにされているかただと思います。
ぼくが「黄色」っていったことは、
志の輔さんの、その限界を超えていたんでしょう。 |
── |
黄色はやめましょう、と。 |
堀尾 |
やめましょうとは言わないんですよ。
「あのう、あのう、うーん‥‥」って悩まれてて。 |
── |
志の輔さんが考え込む姿が目に浮かびます(笑)。
で? 結局どうやって説得なさったんですか? |
堀尾 |
模型を送りつけました。
この舞台のちっちゃいのをつくって黄色に塗って。
それでもまだOKが出なかったんです。
お正月の公演なのに、年末に仕込みをしても
まだOKがでない。 |
── |
そんなぎりぎりまで‥‥。
仕込みでは黄色い舞台をつくっちゃうんですか。 |
堀尾 |
ええ、この状態にして、
志の輔さんを呼ぶんです。
そのときは、ちょっと照明を暗めにして(笑)。
急に黄色を見たら、びっくりするんで。 |
── |
(笑)暗めの黄色い舞台を前に、
堀尾さんは、どんな説明をするんですか? |
堀尾 |
「志の輔さん、劇場は闇ですから」って。 |
── |
劇場は闇。 |
堀尾 |
闇の中では、白も見えないということです。
必要なところだけ光量を上げれば、
大丈夫じゃないですか。
暗い色のセットのときには
たくさんの光量が入ります。
でも黄色とか鮮やかなものは少しの光量だけで、
それでも落ち着いて見えますから大丈夫なんです、
と、そういう説明をしました。
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── |
なるほど。 |
堀尾 |
それで実際に照明を入れて、
客席から見てもらいました。 |
── |
すると? |
堀尾 |
「あ、なるほど、目がチカチカしませんね」って。 |
── |
ああ。 |
堀尾 |
「でも派手にするとチカチカしますね。
だから抑えた照明でやりましょうか」
ということでOKになりました。 |
── |
なるほどー。 |
堀尾 |
‥‥ほらね(笑)。 |
── |
‥‥え? |
堀尾 |
こうやって、騙すんです(笑)。 |
── |
ええ? ‥‥いやでもそんな(笑)、
実際ぼくらも本番を拝見したんですが、
黄色くて目がチカチカしたとか、
そういう違和感はぜんぜんなかったですよ。 |
堀尾 |
実はですね、照明の光量は
最初よりもちょっと上がってるんです。 |
── |
そうなんですか? |
堀尾 |
師匠がね、照明さんに
「上げてほしい」って言ったらしくて。 |
── |
ええ?!(笑) |
堀尾 |
お客さんの反応を見て、
明るくてもいけると思われたのでしょう。
「黄色も良かった」という声が聞こえて
志の輔さんも落ち着かれたんだと思います。 |
── |
堀尾さんにしてみれば、
「よし!」という感じですよね。 |
堀尾 |
まあ、そうかもしれないですけど、
師匠に「どうでした? 黄色」って聞いても、
「自分は前向いてるからわからない」って、
それだけなんですよね(笑)。 |
── |
(笑)。 |
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(つづきます) |