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宮本茂 × 糸井重里、対談2005

 

糸井 あの、犬のソフトは
宮本さんがつくってるんですよね。
宮本 『nintendogs』ですか。そうですね。
まあ、実際はディレクターがやってるのでね、
僕が直接全部やってるわけやないんですけど。
じつは、あのゲームはずいぶんまえに、
ゲームキューブでつくり始めてるんですよ。
とりあえずつくってみようっていう感じで
いろいろやってたんですけど、
犬をリアルにしていくだけじゃ、
ちっともおもしろくならないんですね。
で、ニンテンドーDSの
ハードを考えてるときに、
こっちでやってみようかと。まあ、最低でも、
頭はなでられるように
なるだろうし、って(笑)。
糸井 (笑)
宮本 直接なでるっていうのは、
やっぱうれしいやろうというので、
始めてみたらやっぱりそれが
期待以上にうれしくて。
糸井 それはそうですよねえ。
宮本 で、そこからいろいろふくらませて。
まず、担当ディレクターに、
こういうふうに遊ぶゲームになるっていう
スケッチをいくつか描いてもらったんです。
そしたら、そのなかに、
「机の上に置いてある
 ニンテンドーDSに向かって
 プレイヤーが『おーい!』って
 呼びかけてる絵」があったんですね。
ニンテンドーDSにはマイクがありますから、
そういう遊びかたができるんです。
つまり、犬に向かって、
遠くから呼びかけているわけです。
で、ぼくは「これがいい!」って言うて。
というのは、ゲーム機をこう、
手元に持って遊ぶのが、
その遊びに似合ってないので。
だからこう、犬小屋のように、家のどこかに
ニンテンドーDSが置いてあって、
で、みんながちょっかいを出していく、
その感じがええよねと思って。
糸井 なるほどね。
宮本 テーブルの上にニンテンドーDSが
ポンと置いてあって、
朝の出かけるときなんかは、
家族のみんなが犬にひと言かけて出て行く、
みたいなのがええなあと思って。
誰もいなくなったあとは、
犬がずーっとテーブルの上にいるような、
そういう感じの機械のほうが
おもしろいと思って。
そういうことはずっとまえから考えてて、
‥‥これは言うていいのかな? まあ、いいか。
あの、ゲーム機のなかに「庭」が
あるようなものを考えてて。
そこで、木を植えたりするやつなんですけど。
ま、べつにガーデニングをゲームに
しようというわけではないんですけど、
だんだんに庭ができてくるようなものなんです。
そうするとやっぱり、その「庭」を、
一日中、こう、
机の上に置いときたいんですよね。
卓上時計のように置いて。
そうすると、「庭」に、鳥が来たりするでしょ。
糸井 しますね。うんうんうんうん。
宮本 そしたら、「あ、鳥が来た」って
たのしめるようなもので。
どんな鳥が来てるかのぞいてみよう、とか。
そうすると、水場があると、
こういう動物が来るとか、
リンゴを刺しておくとこうなるとか。
糸井 つまり、環境をつくると
それが自然に変化してく。
宮本 そう、変化していって。
そういうのをね、仕組んでおくと、
ずーっとつきあってたいものに
なるんちがうかな、
というふうに思ってて。
糸井 要するに、なんていうんだろう、
つくってる人もプレイヤーも、
何が起こるかわからないことと
つき合いたいんですよね。
宮本 そうそう。そうなんです。
たとえば『ゼルダ』をつくってるとね、
ダンジョンが8つある、と。
そうすると、つくってても、遊んでても、
ダンジョンが4つ終わったら、
「ああ、半分終わった」
って思うわけですよね。
糸井 そうだよね。
宮本 「あと半分しかないのか」と思う人と、
「まだ半分もあるのか」って思う人が
いるんでしょうけど、なんかその、
終わりがどこまでなのかわからんほうが、
つくるほうにも遊ぶほうにも
絶対健全なんですよ。
糸井 うん。枠が見えてると、
これだけの時間がかかるということが
よくも悪くも見えてしまうと思うんですよ。
でもね、「必ずこれだけの時間をくれ」って、
「オレのために時間をくれ」って、
でかい声で要求するほどのことを、
つくってるほうはしてないような
気がするんです。
宮本 うん、そうは言えないですよね。
糸井 こないだね、タモリさんと山下洋輔さんと
ジャズについて対談したときに、
「ジャズっていうの、やっぱり、
 どっかに退屈なところが混じりますよね」
みたいなことを、まあ、
素人としてぼくが言ったんですよ。
そうすると、「そうなんだよね」と。
これはもう、宿命みたいなもんで、
もともと音楽全体もそうだけども、
ようするにジャズという表現というのは、
「ちょっと、まあ、
 俺の話を聞けってことだよ」って
タモリさんは言うんだよ(笑)。
宮本 はあはあ(笑)。
糸井 それを言われたとたんにわかるんだけど、
音楽全般も含めて、ぜんぶ表現っていうのは、
「俺の話を聞け」だから、
退屈な時間もあるに決まってるわけで。
宮本 うん(笑)。
糸井 しゃべりたいやつがしゃべってる
っていうほうが先で、
「あんたのためにしゃべってる」
みたいなことを言うのは、
ちょっとおこがましいんじゃないかなと。
で、その意味では、まあ、
「時間は取らせないから俺の話を聞け」
って言うから聞いてたら、
思わず聞き惚れてしまったとかね。
「あのおじさんの話はもう芸になってるね」
とかね。そうやって、
「あの話、もう1回聞きたい」
っていうふうになるわけじゃないですか。
おんなじですよね、ゲームも。
だから、自分が驚かないんだけど、もう、
「おまえら、集めたんだから、金も取るぞ、
 聞けよ! こんなに時間は取ってあるぞ!」
って相手に言われたらさ、
勘弁してくれって思うと思う(笑)。
宮本 そうですね。うん。
糸井 素人演芸大会みたいになっちゃいますよね。
宮本 で、つくってるほうもね、
「ああ言ったからには、
 もう、絶対ウケなあかん!」とかね、
すごいストレスが溜まっていって。
糸井 そうですよね。うん。


続きますよー。次回の更新をおたのしみに!
2005-03-04-FRI