糸井 |
あの、犬のソフトは
宮本さんがつくってるんですよね。
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宮本 |
『nintendogs』ですか。そうですね。
まあ、実際はディレクターがやってるのでね、
僕が直接全部やってるわけやないんですけど。
じつは、あのゲームはずいぶんまえに、
ゲームキューブでつくり始めてるんですよ。
とりあえずつくってみようっていう感じで
いろいろやってたんですけど、
犬をリアルにしていくだけじゃ、
ちっともおもしろくならないんですね。
で、ニンテンドーDSの
ハードを考えてるときに、
こっちでやってみようかと。まあ、最低でも、
頭はなでられるように
なるだろうし、って(笑)。
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糸井 |
(笑)
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宮本 |
直接なでるっていうのは、
やっぱうれしいやろうというので、
始めてみたらやっぱりそれが
期待以上にうれしくて。
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糸井 |
それはそうですよねえ。
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宮本 |
で、そこからいろいろふくらませて。
まず、担当ディレクターに、
こういうふうに遊ぶゲームになるっていう
スケッチをいくつか描いてもらったんです。
そしたら、そのなかに、
「机の上に置いてある
ニンテンドーDSに向かって
プレイヤーが『おーい!』って
呼びかけてる絵」があったんですね。
ニンテンドーDSにはマイクがありますから、
そういう遊びかたができるんです。
つまり、犬に向かって、
遠くから呼びかけているわけです。
で、ぼくは「これがいい!」って言うて。
というのは、ゲーム機をこう、
手元に持って遊ぶのが、
その遊びに似合ってないので。
だからこう、犬小屋のように、家のどこかに
ニンテンドーDSが置いてあって、
で、みんながちょっかいを出していく、
その感じがええよねと思って。
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糸井 |
なるほどね。
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宮本 |
テーブルの上にニンテンドーDSが
ポンと置いてあって、
朝の出かけるときなんかは、
家族のみんなが犬にひと言かけて出て行く、
みたいなのがええなあと思って。
誰もいなくなったあとは、
犬がずーっとテーブルの上にいるような、
そういう感じの機械のほうが
おもしろいと思って。
そういうことはずっとまえから考えてて、
‥‥これは言うていいのかな? まあ、いいか。
あの、ゲーム機のなかに「庭」が
あるようなものを考えてて。
そこで、木を植えたりするやつなんですけど。
ま、べつにガーデニングをゲームに
しようというわけではないんですけど、
だんだんに庭ができてくるようなものなんです。
そうするとやっぱり、その「庭」を、
一日中、こう、
机の上に置いときたいんですよね。
卓上時計のように置いて。
そうすると、「庭」に、鳥が来たりするでしょ。
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糸井 |
しますね。うんうんうんうん。
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宮本 |
そしたら、「あ、鳥が来た」って
たのしめるようなもので。
どんな鳥が来てるかのぞいてみよう、とか。
そうすると、水場があると、
こういう動物が来るとか、
リンゴを刺しておくとこうなるとか。
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糸井 |
つまり、環境をつくると
それが自然に変化してく。
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宮本 |
そう、変化していって。
そういうのをね、仕組んでおくと、
ずーっとつきあってたいものに
なるんちがうかな、
というふうに思ってて。
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糸井 |
要するに、なんていうんだろう、
つくってる人もプレイヤーも、
何が起こるかわからないことと
つき合いたいんですよね。
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宮本 |
そうそう。そうなんです。
たとえば『ゼルダ』をつくってるとね、
ダンジョンが8つある、と。
そうすると、つくってても、遊んでても、
ダンジョンが4つ終わったら、
「ああ、半分終わった」
って思うわけですよね。
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糸井 |
そうだよね。
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宮本 |
「あと半分しかないのか」と思う人と、
「まだ半分もあるのか」って思う人が
いるんでしょうけど、なんかその、
終わりがどこまでなのかわからんほうが、
つくるほうにも遊ぶほうにも
絶対健全なんですよ。
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糸井 |
うん。枠が見えてると、
これだけの時間がかかるということが
よくも悪くも見えてしまうと思うんですよ。
でもね、「必ずこれだけの時間をくれ」って、
「オレのために時間をくれ」って、
でかい声で要求するほどのことを、
つくってるほうはしてないような
気がするんです。
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宮本 |
うん、そうは言えないですよね。
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糸井 |
こないだね、タモリさんと山下洋輔さんと
ジャズについて対談したときに、
「ジャズっていうの、やっぱり、
どっかに退屈なところが混じりますよね」
みたいなことを、まあ、
素人としてぼくが言ったんですよ。
そうすると、「そうなんだよね」と。
これはもう、宿命みたいなもんで、
もともと音楽全体もそうだけども、
ようするにジャズという表現というのは、
「ちょっと、まあ、
俺の話を聞けってことだよ」って
タモリさんは言うんだよ(笑)。
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宮本 |
はあはあ(笑)。
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糸井 |
それを言われたとたんにわかるんだけど、
音楽全般も含めて、ぜんぶ表現っていうのは、
「俺の話を聞け」だから、
退屈な時間もあるに決まってるわけで。
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宮本 |
うん(笑)。
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糸井 |
しゃべりたいやつがしゃべってる
っていうほうが先で、
「あんたのためにしゃべってる」
みたいなことを言うのは、
ちょっとおこがましいんじゃないかなと。
で、その意味では、まあ、
「時間は取らせないから俺の話を聞け」
って言うから聞いてたら、
思わず聞き惚れてしまったとかね。
「あのおじさんの話はもう芸になってるね」
とかね。そうやって、
「あの話、もう1回聞きたい」
っていうふうになるわけじゃないですか。
おんなじですよね、ゲームも。
だから、自分が驚かないんだけど、もう、
「おまえら、集めたんだから、金も取るぞ、
聞けよ! こんなに時間は取ってあるぞ!」
って相手に言われたらさ、
勘弁してくれって思うと思う(笑)。
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宮本 |
そうですね。うん。
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糸井 |
素人演芸大会みたいになっちゃいますよね。
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宮本 |
で、つくってるほうもね、
「ああ言ったからには、
もう、絶対ウケなあかん!」とかね、
すごいストレスが溜まっていって。
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糸井 |
そうですよね。うん。
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