橋本 |
紫式部の文章を読んでると、
俺、ユーミンの歌詞を思い出したの。
肝心なことは何も書いてないわけさ。 |
糸井 |
はぁ。ずーっと、あの、景色景色で、
脇ものに流れてますよね。 |
橋本 |
あの、なんかの歌でさ、
パーティー行って、クロークに帽子預けた、
みたいなのあるんだけど、
クロークのことだけで、
その向こうにあるパーティーのことを
何も書いてないわけ。
ユーミンにとって、
パーティーがあるっていうのは
当たり前のことだから、
クロークのことを書けば
パーティーが見えてくるっていうのあるんだけど、
紫式部、それなんだよね。
だからね、王朝の美学で、っていうの、
あるんだけど、あの人、情景描写、
ほとんどしてないのよ。
もうね、ほんっとに心理物語に
なっちゃってるから。 |
糸井 |
それにくらべると、
人形浄瑠璃は見せなきゃなんないから。 |
橋本 |
そう。もう、見せ物なの。
だから、立ち上がっちゃってるわけですよ。 |
糸井 |
つまり、ト書き部分っていうのが、
筋に入ったわけだ。
はぁー。今の小説は、確かに‥‥。はぁ〜。 |
橋本 |
で、その、『源氏物語』がぜんぶ、
うたものがたり的なものだ、
っていうふうに解釈されてしかたないし、
浄瑠璃だってうただったりするし、
『平家物語』だって語りだから‥‥。 |
糸井 |
ユーミンが歌い続けて3日間、みたいなのが、
『源氏物語』なんだ。 |
橋本 |
いやぁー、3年かもしれない。 |
糸井 |
3年かもしれない(笑)。 |
糸井 |
歌い続けるユーミンって、怖いね。 |
橋本 |
だってさ、だってさ、だって、
あの人の歌い方って、清元だっていうんだもん。 |
糸井 |
ビブラートはないですからね。 |
橋本 |
私、子どものとき清元習ってたから、
それが歌に出てるって。
だから、そういう意味で、
変につながってるんですよ、
つながってるっていえば。 |
糸井 |
呉服屋だってことで、
着物の柄みたいな情景描写だしね。
あの、ソーダ水の向こう側に
船を描く力っていうのは。 |
橋本 |
そうそうそうそうそうそう。 |
糸井 |
あれは和服ですよね。 |
橋本 |
うん。 |
糸井 |
コップの中に船がいるんだよね。
あのあたりっていうのはやっぱり、
すごいそういう‥‥。 |
橋本 |
あれはもう、和歌に近いよね。 |
糸井 |
ねぇ? |
橋本 |
なにか絵になるものがある、って発見したら、
そこにはどうもあるんだもん。 |
糸井 |
じゃあ、平賀源内に無理矢理戻して。
全体に、平賀源内の話を聞いたな、
っていう印象にしたいと思うんですけど。
ま、橋本治の考える、平賀源内を、
ひとつここでつかまえておきたい。
橋本君の気持ちっていうのは、
さっきの、やっぱり、戯作ですか? |
橋本 |
戯作っていうかね、やっぱ平賀源内って、
空気なんじゃないか?
っていう気がするの。
平賀源内って、日本人のある種の憧れなんですよ。
その人、どういう人?
っていわれても、よく知らないんだけど、
でも平賀源内でしょ?
何でもできたんでしょ? みたいなね。
だから、あっちに展示してあるものを見て、
うっかり、何にも知らない人、
これ、ぜんぶ平賀源内がつくったんだ、
って勘違いするかもしれないんだから。 |
糸井 |
そうなんだよ、何にもつくってなかったり
するんだよね。あぁ。 |
橋本 |
ないんだよね。でも、なんか、
平賀源内とその時代っていうふうになると
勉強しなくちゃいけないけど、
平賀源内だと、なんかわかんないけど
平賀源内なんだよね、っていう、
自分の中にも何かあるかもしれないな、
っていう、なにかでありたい、
マルチ性を刺激するような
空気なんじゃないのかなぁ。 |
糸井 |
そこはとってもガキっぽいですよね。 |
橋本 |
うん。 |
糸井 |
設計図を引かせるとこから考えてた人だからね。 |
橋本 |
だから、それがなんか、
日本人のメンタリティーとしては
いちばん楽しい、っていう感じなんじゃないの? |
糸井 |
日本人って、その楽しさ、
ものすごい好きですよね。 |
橋本 |
好きだよねぇ。 |
糸井 |
あぁー。それで、そこの楽しさは、
逆にいうと、今は枯れてる、ですね。 |
橋本 |
いや、うん、でも、みんな参加したがってるから。
みんな平賀源内に近づいてるのかもしれないけど。
だってさ、歌手の何とかさんよりもさ、
歌手のなんとかさんがマルチで、
絵も描きました、これもやりました、
アートもやりました、展覧会やりました、
っていったら、そのほうが、
「なんかすごいな」っていうふうになるじゃん。
で、その人は歌聞いたことないんだけど、
「あ、この人、すごい人なんだって?」
ってやるからさ。 |
糸井 |
べつにそれは鶴太郎的な意味ではなくって? |
橋本 |
鶴太郎的か、カールスモーキー的なものなのか、
よくわかんないけど。
で、しかも、ほら、「いい男だしね」
っていうのがついてくるじゃない。
だから、そういう、
まとめて幾らみたいなものって、
重要なんじゃないのかなぁ?
っていう気がするんだけどね。 |
糸井 |
あの、なんていうんだろう、
弁当みたいなもんだな。
この、煮豆もうまいわよ、みたいなね。
お節とかね。 |
橋本 |
そうそうそうそうそう。
だからね、美空ひばり記念館とかさ、
行ったことないからわかんないけど‥‥。 |
糸井 |
ジュディ・オング資料館ってあるの、知ってた?
昨日知ったんだよ。伊豆にあるんですよ。 |
橋本 |
伊豆には、加山雄三ミュージアムがあるよ。 |
糸井 |
伊豆って、なに!? |
橋本 |
知らないよぉ!
んでさ、加山雄三ミュージアム──ってあって、
俺もほんとにねぇ、あまりエグかったら、
加山雄三のTシャツ買おうかと思ったんだけど、
エグくないんだよ。
なんでここに加山雄三の顔を入れてくれないのか?
みたいな。もっと加山雄三を念押ししろ、
その、なんか、おしゃれなロゴのように
しちゃって、遠目には
「加山雄三ミュージアム」って
書いてあるように見えないわけよ! |
糸井 |
じゃないフリをしてる。駄目だよね。 |
橋本 |
うん! で、しかもね、
加山雄三で飾ってるのは何か? っていうと、
彼の持ってたヨットを飾っててっていう。
加山雄三のファンの人は、ヨットに限定しない!
それが、なんか、「平賀源内は鉱山だ」、
「平賀源内は戯作だ」って、
そういう限定のしかたじゃなくて、
「平賀源内は何かなんだ」なんですよ。
「加山雄三も何か」なの。
だから、「ヨット」じゃなくて、
「若大将」でいいんだよね。
一山幾ら、にしていい‥‥。 |
糸井 |
できたら、屋根に、こう、
ギター持った加山雄三をのっけてほしいよね。 |
橋本 |
そうそうそう。でも、それをやらないのが
不思議だよね。
若大将カレーとか売ってんだけどさ。 |
糸井 |
なんで伊豆ってさ、
いもしなかった伊豆の踊子の何かが
名物になったりさ。‥‥いないんだよね。
小説の中にいた人なのに、
伊豆にいたことにして、
踊子がどうのこうの、踊子号走らしたりさ。 |
橋本 |
でも、あれ、伊豆の踊子が
通った道じゃないだろう? |
糸井 |
関係ないよね。 |
橋本 |
うん、山の中の道、
電車通ってないしさー。 |
糸井 |
とうとうジュディ・オングなんですよ、今じゃ。
わからない、僕には。 |
橋本 |
あの、伊豆の稲取の沖で採れる
キンメダイの輝きが、ジュディ・オングの
「魅せられて」の衣裳の‥‥。 |
糸井 |
(笑) |
橋本 |
だから、こういう下らない発想が、
戯作の発想だもん。 |
糸井 |
そうだね。伊豆、イコール、なんか、
平賀源内な感じですよね。
なんか、空気そのもの。 |
橋本 |
最近になってだと思うよ?
あれは。昔の人に、それを言ったら
怒られると思うよ?
それで、伊豆は、曽我兄弟の生まれたとこだし、
河津の祐泰(=河津三郎祐泰:
かわづさぶろうすけやす)のとこだし、
俺、わざわざ、前、
伊東祐親(いとうすけちか)の墓で、
誰も行かない墓、見に行ってさ。
あ、そっかー、伊東祐親の墓は
海向いてないんだー、とかっていう勝手な‥‥。 |
糸井 |
伊東祐親って、知らない、知らない。 |
橋本 |
伊東祐親ってね、
曽我兄弟のおじいさんなの。 |
糸井 |
あはははははは。そうとう知らなさが強いね。
曽我兄弟のおじいさん。
俺の一生の中で1回だけ出てきた会話だろうね。 |
橋本 |
曽我兄弟のおじいさんの‥‥
婿になった河津の祐泰(すけやす)っていうのが、
曽我兄弟のお父さんなんだけど、
その人は、相撲の河津投げで名を残してる人なの。 |
糸井 |
そういえばさ、おしまいに、
まだ行ってないからあれなんですけど、
この近所に、平賀源内の墓があるんですよね。
地元に1コあって、
こっちにもあるらしいんだけど、
お寺が引っ越しちゃったんで、
平賀源内の墓だけ単独にあるらしいんだよ(笑)。 |
橋本 |
へぇ〜。 |
糸井 |
で、それも平賀源内らしいなーって。
で、いちおうフタが閉まってるかなんかして、
隣の人に言うと開けてくれる、
って書いてあるんですよね、墓の本に。 |
橋本 |
それ、平賀源内だね。
かわいそうだよね。
だって、開けられちゃうんでしょ? |
糸井 |
そう、最後まで平賀源内だなぁーと思って、
行ってないんですけどね。
そこも源内だなーという気もするんですけど。
じゃ、お時間です。
どうもありがとうございました。
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