糸井 |
保坂さんは、
ローズの時代のベイスターズが濃いんですか?
自分の記憶のなかで。
加藤博一とかの時代は、どうしてました? |
保坂 |
80年代は、
テレビがないひとり暮らしだったから。
大洋、すごいよわかったし。
ぼくが知ってるのは、
60何年から70年代半ばまでの大洋と、
佐々木が出てきた、
ベイスターズになってからの横浜。
ブラッグスとローズの1年目ぐらいからですね。 |
糸井 |
ある意味では、
「お化粧がすんでから」ですね。
もっとあの、素顔すぎましたからね、あの球団は。
「キャッチャー市川」みたいな時は。 |
保坂 |
(笑)4番山崎なんて、ぼく、知らないからね。
きっと今が、その時代だと思うんですよ。 |
糸井 |
似てるね。
大ちゃん(山下大輔監督)が
明るくふるまっている
ベイスターズっていうのは、
小ささとしてバランスがよくて、
ファンはつらいだろうなぁという気が……。
つまり、ブラッグスがいて
ローズがいたときの監督には、
大ちゃん、似合わないですよね。
しかも、明るくふるまえないですよね、
もっと本気だから……。 |
保坂 |
うん。 |
糸井 |
ぼくは近所に、
保坂さんもしってる
石井くん(元・糸井重里事務所スタッフ)という
人造・ベイスターズファンがいるんです。
彼は、どこを好きになろうかというのを
考え抜いて、ファンになったんですよ。
ぼくが、昔のファミコンの
ファミスタで、ジャイアンツを取るんで、
どこだかわからないから、
どっかにしようと思って、
勝つために、当時のホエールズを選んだ。
それはなぜかというと、
めちゃくちゃ内野安打が多くて、
足で、掻きまわして勝つんです。
それで勝つために使っているうちに、
だんだん好きになったっていう……。 |
保坂 |
(笑) |
糸井 |
ファミスタの、
あの将棋のコマみたいなものから、
逆に現実に生きていって、その挙句に、
開幕戦は、みんなでマイクロバスを仕立てて
ベイスターズを応援しにいくっていう人間に、
なりはてたやつなんです。
こないだは、事務所のスタッフに、
まるで説教するかのように、
「趣味を持つのはええぞ」と……。 |
保坂 |
(笑) |
糸井 |
「オレは、どれだけ
ベイスターズに救われたか、わからない。
うれしいこと、かなしいこと、
みんなベイスターズが助けてくれる」
その気持ちは、他のチームのひいきの
俺にも、わかるんですよ。
で、それを教えたのはぼくなんです。
……つまり、どんなに家庭が不和でも、
どなりたいときがあっても、
「くっそー。ジャイアンツのせいだ!」
ってことにして、ぜんぶ感情を出せるんです。
「苦しいことがあっても、
それよりタイヘンなのは、原さんなんだ!」
「山倉なんだ!」
ということで、あれ、ほんとに、
ローマ市民におけるコロッセアムなんですね。
毎日の粉ひきがどれだけタイヘンでも、
あそこで命をかけてトラと戦っている男がいる。
保坂さんの記憶も、最高ですね。
ブラッグス、ローズのところに
光が当たったまま、記憶がとまってる。
……錦絵ですもん、それは。 |
保坂 |
でもやっぱり、優勝がなかったら、
ぜんぜん違う人生になっていたと思いますね。 |
糸井 |
(笑)イイなぁ。 |
保坂 |
「優勝してはじめて野球選手になる」
と言われるのと同じで、ファンだって、
優勝を経験して、はじめてファンになれるというか。 |
糸井 |
そうですね。 |
保坂 |
あのよろこびが共有できるというか、
あれを知らなきゃ、
野球を知ってるっていうことにならないという。 |
糸井 |
俺、そのことについては、
さっき言った石井くんとの
「小さな友情」があるのよ……。
ベイスターズの優勝のシーンに立ちあって、
とにかく、感極まったらしいんです。
で、そのときに俺を思い出したっていうんですよ。
「糸井さんは、これを、
何度も味わって生きてきたんだなと思った」
っていう。 |
保坂 |
(笑) |
糸井 |
俺、それを聞いて、
涙が出そうにうれしくなった!(笑)
なんか、その、通過儀礼に立ちあった青年が、
親を語るような…年齢とか関係ないんだよね。
あれが、ものすごいぶりの優勝だったでしょ? |
保坂 |
38年。
1960年のことだから、ぼくだって知らないわけで。 |
糸井 |
三原マジックのときですよね。 |
保坂 |
そうです。 |
糸井 |
ベイスターズファンになったのは、
偶然なんですか? |
保坂 |
小学3年生で野球を覚えたんだけど、
その小学3年生っていうのは、
今思えば、巨人のV9の1年目なんです。
ぼくの場合は、野球を覚えた時に、
親父に「どこのファンなの?」って聞いたら、
「まぁ、同じ県だから、大洋だな」
いいかげんな人でね。 |
糸井 |
(笑)そんなもんなんだよねえ……。
その当時って、どういう選手がいました? |
保坂 |
近藤和彦、昭仁、長田、桑田……。 |
糸井 |
ピッチャーは? 秋山? |
保坂 |
秋山はもう落ち目で、
新人の高橋重行が、20勝20敗だったかな?
2年目かもしれないけど、あとは、
稲川とか、左腕の小野もいたのかなぁ? |
糸井 |
小野って、覚えてないなぁ……。
かわいそうだな、小野。 |
保坂 |
東京オリオンズ(現・ロッテ)に
移ったりしたんですけど。 |
糸井 |
あぁ、あの小野ですか。覚えてます。 |
保坂 |
月間20勝っていう記録を持っている。 |
糸井 |
それはウソでしょ! |
保坂 |
神保町の東京堂書店に、経塚さんっていう
大洋からの横浜ファンがいるんですけど。
その人、稲尾の何十勝とか、記録フリークで、
記録をやけに覚えてて……
小野のことも、実際そうだったらしいですよ。
(※のちに、この小野は、
稲尾と並んで、月間11勝0敗の
記録を持っている、小野正一と判明) |
糸井 |
それが、
単なる記憶ちがいだったらステキだねぇ。
それをもとにして、
ぜんぶの思いが紡げるんだもんね。
そういうの、大好きなんですよ。
「もとになってる話しがウソなのに、
ぜんぶが整ってる」っていうやつ。 |
保坂 |
(笑) |
糸井 |
ほんとの話に、
ちょっと似てたりするのが、ステキなんだよね。
ほんとのようで、うそのようで。 |
保坂 |
人をささえるのって、
調べて、ウソかほんとじゃなくて、
「彼を動かす言葉」だからね。 |
糸井 |
それ、いいなぁ……。 |
保坂 |
ねぇ、この対談、終わりの
2、3回だけ読んだ人は、
野球談義だって思っちゃうんじゃないですか?
みなさん、途中も読んでください! |
糸井 |
(笑)
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(おわりです!)
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