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糸井 | えー、山岸俊男先生です。 |
会場 | (拍手) |
山岸 | こんにちは。 |
糸井 | 今日はギャラリーといいますか‥‥ 聴講生がいるんです。 ま、うちの社員なんですけど(笑)。 |
山岸 | ええ、慣れてますから。 |
糸井 | あ、そうか(笑)。 |
山岸 | よろしくお願いします。 |
糸井 | ええと、お会いするのは何年ぶりでしょう。 3年‥‥4年ぶり、くらいかなぁ。 |
山岸 | そのくらい経ちますかね。 |
糸井 | その間、先生の根本的なテーマは 変わっていないと思うんですが‥‥。 |
山岸 | ええ。 |
糸井 | 「信頼」。 |
山岸 | はい。 |
糸井 | ぼく、梅棹忠夫さんという学者の書かれた 『情報の文明学』という本が 「ほぼ日刊イトイ新聞」の「父」だと 思っているんですね。 |
山岸 | ええ、ええ。 |
糸井 | 情報が社会をかたちづくる時代の到来を 1960年代の段階で、予言的に書いた本。 |
山岸 | そうですね。 |
糸井 | で、山岸先生の書かれた『信頼の構造』が 「ほぼ日」の「母」だと思っていて。 ‥‥勝手に(笑)。 |
山岸 | いや、うれしいです(笑)。 |
糸井 | その『信頼の構造』という本は その次の『安心社会から信頼社会へ』ともども、 「ほぼ日」というちっちゃな船に乗り込んで 大海へ漕ぎだそうとしていたときに 読んだんですけど‥‥もうびっくりしまして。 |
山岸 | はい。 |
糸井 | あの本のなかで言われていることを こころに留めておいたら、 自分たちのとるべき戦略だとか、 ルールのつくりかただとか‥‥ いろんなことが だいぶ変わるだろうと思ったんです。 |
山岸 | そうですか。 |
糸井 | で、実際、そういうふうにやってきて、 つくづく「よかったなぁ」と思ってるんですよ。 |
山岸 | そう言っていただけると、うれしいですね。 |
糸井 | 何度か「ほぼ日」でも話していただいてますが、 正直は最大の戦略である‥‥と。 |
山岸 | ええ、あの2冊を書きあげた時点から かなり時間が経ってますけど、 いまでも 社会の構造は変わってないと思います。 |
糸井 | うん、うん。 |
山岸 | つまり「人を信頼する」ということが、 日本では 「互いの関係を強くすること」としてしか 捉えられていないんですよ。 |
糸井 | それ以外の「信頼」もあると。 |
山岸 | ええ、信頼というものには 「関係を広げていく」というかたちも あるんだってことが、 世のなかの常識として根付いてない。 |
糸井 | そういう問題意識って 外国で研究されていたときに、生まれたんですか? |
山岸 | そうですね。アメリカで暮らしていると、 まずは「受け入れて」、 それから「どうしようか」と考えるんです。 |
糸井 | 隣人を。 |
山岸 | 日本だと最初に「選ぶ」ところから入るでしょ。 |
糸井 | ええ。誰かとつき合うかどうかについて。 |
山岸 | この差は「信頼とは何か」を考えるうえでも かなり大きいだろうな、とは思ってましたね。 |
糸井 | 大統領選挙のニュースなんかを見てると、 情勢によって敵味方の陣営が くるくる入れ変わったりしてますよね。 |
山岸 | はい。 |
糸井 | 「おまえとは一生、握手しないぞ」って はじめから、決めつけてないというか‥‥。 |
山岸 | そうですね。 最終的に、 もともとの敵と握手することになるなんて、 ふつうにありますから。 |
糸井 | ああいう関係性って、たしかに ぼくら日本人からすると、新鮮ですよね。 |
山岸 | いちばん極端な例が、ローマ帝国でしょう。 |
糸井 | ほう。 |
山岸 | 敵対する国を次々と支配下に取り込んで 大きくなっていきましたよね。 |
糸井 | ええ、ええ。 |
山岸 | つまり、かつて敵味方の関係にあったとしても、 いちど仲間になったら「信頼」するんです、彼らは。 |
糸井 | なるほど‥‥。 |
山岸 | このことの説明のしかたとして よく「宗教のちがい」が持ち出されますが。 |
糸井 | キリスト教的な一神教と、アジアの多神教。 |
山岸 | たぶんそれは、ないだろうと。 |
糸井 | 先生のお考えでは。 |
山岸 | どうしてかというと、 ローマ帝国は多神教だったんです。 |
糸井 | はぁ‥‥。 |
山岸 | 多神教であっても、 開かれた関係のつくりかたをしてる。 |
糸井 | それじゃあ、何がちがうんでしょう。 |
山岸 | 戦略でしょうね。 生きていくうえでの戦略のちがい。 |
糸井 | その「戦略」という言葉は、 先生の著作のなかでも 折に触れて出てくるキーワードですね。 |
山岸 | つまり、 日本では握手のまえに「選ぶ」ほうが 生きやすかった。 |
糸井 | 逆にアメリカでは、 まず握手しちゃうほうが、生きやすかった。 |
山岸 | そういうことです。 <つづきます> |
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