第1回 はじめまして。 2010-05-17-MON
第2回 はちまきを巻かずに。 2010-05-18-TUE
第3回 熱を入れても、冷やしていく 2010-05-19-WED
第4回 覚悟は減らしていくことのなかに。 2010-05-20-THU
第5回 馬糞のご令室。 2010-05-21-FRI
第6回 美術館運営という仕事。 2010-05-23-SUN
第7回 ドテラを着た御先祖さま。 2010-05-24-MON
第8回 どっちでもいいこと。 2010-05-25-TUE
第9回 自分で価値があると思ったことしか。 2010-05-26-WED
第10回 油絵を始めました。 2010-05-27-THU
第11回 もう照れはなくなりました。 2010-05-28-FRI
第12回 旧細川家下屋敷庭園を歩きながら。 2010-05-30-SUN




細川 永青文庫のなか、歩きながら)
糸井さん、館内を御案内しましょう。
ここは戦後、昭和25年に財団になりまして、
祖父(細川護立)の集めたものと、
700年ぐらい前からあるものとが
二本柱になっています。
糸井 上野の特別展「細川家の至宝」
近いものがあるんですね。
展覧会、面白かったです。
細川 ありがとうございました。
なかなか見応えのある、
私も見てないようなものがございましたしね。
あれはちょっと一回では見切れませんね。
糸井 そうですね。
解説をしていただきながら
早足で見たんですけど、
2時間弱かかりました。
細川 そうでしょうね。
糸井 教科書に出てるようなものが。
細川 そう、
教科書にも出てくるかもしれませんね。
糸井 ここにあるものは、
護立さんのものですか?
細川 そうです。護立コレクションです。
糸井 その方の存在というのはもう‥‥。
何気なく重要文化財が(笑)。
すごいなぁ。
禅画のコレクションはやっぱり日本でも
一、二という?
細川 世界一だと思います。
糸井 世界一ですか。
細川 白隠(慧鶴)だけで330点ぐらいですかね。
(義梵)が130点ぐらいでしょうか。

達磨図 白隠彗鶴筆
江戸時代 明和4年(1767年)、東京永青文庫蔵

大燈国師図 仙義梵筆
江戸時代 19世紀、東京永青文庫蔵

それだけでなくて、
白隠に連なるお弟子さん達のものとか、
宮本武蔵のものとか、
相当な数になりますので。

達磨図 宮本武蔵筆
江戸時代 17世紀、
東京永青文庫蔵(熊本県立美術館寄託)
糸井 蔵書もたくさんあるんですね。
細川 そうなんです。
洋書は今慶応大学に5000冊だったか、
漢籍も27000余、預けてあるんです。
「コルディエ文庫」といって
フランスのコルディエさんという方から
譲っていただいたものなんですが、
本当にすごい図書がございましてね。
マルコポーロの『東方見聞録』の
初版本みたいなものとか。
糸井 『東方見聞録』初版本。はぁ‥‥!
細川 能面、能衣装もたぶん一番多いんじゃないかな。
お大名さん方の中では、ですね。
能面はいくつだったかな‥‥、
150ぐらいありましたかね。
ずっと昔からお能に
関わりの深い家だもんですから。
金春(こんぱる)、喜多、
宝生(ほうしょう)、観世、
みなご縁があって。

能面 翁
室町時代 15世紀、東京永青文庫蔵
糸井 上野の展示の能面だけでも、
やっぱり近くで見ると、
素晴らしいですねぇ‥‥。
細川 とてもみな保存状態がいいんですね。
糸井 これまた、ここにこんな人が。
細川 鎧甲もたくさんありまして。
糸井 保存、いいですね。
細川 これがまた保存状態が良くて、
上野にも「黒糸威二枚胴具足」
がありましたが、槍で突かれた痕を
繕ったところがありまして、
忠興が自分で繕ったという書き物が
残ってますんですよ。

黒糸威二枚胴具足 細川忠興(三斎)所有
安土桃山時代 16世紀、東京永青文庫蔵

(別室、書棚に進み)
これは祖父が
「白樺」の同人だったものですから、
そういった方々の。
糸井 いわば友達の本がここにあるという。
細川 はい。ですから他の美術館のように
何か改めて収集するということよりも、
友達関係の中で(横山)大観さんとか、
(小林)古径さんとか、
梅原(龍三郎)さん、
安井(曾太郎)さんとか、
集まってきておりまして。
糸井 いわゆる、名前だけでも
ブランドになってしまっているような
方々のものって、
敢えて見に行くということを
今までしてなかったものですから、
改めて一つでも二つでも目にすると、
それだけのものがあったんだと、
改めてわかりますね。
細川 やっぱり改めて見ると、いいもんですねぇ。
では、こちらの部屋へどうぞ。
私はこちらに座りましょう。
向かい合うよりも、このほうが
撮影がしやすいでしょう。
糸井 ありがとうございます。
ここ(永青文庫)の環境そのものが
展示物のようですよね。
このテーブルも。
細川 ヴェルサイユ条約の調印のときに使った
テーブルと椅子なんです。
糸井 そうですか!
細川 昔の椅子にしてはわりに手頃な大きさで。
糸井 面白いなぁ。
細川さんの唯一の公職が
ここの理事長なんですか?
細川 そうです。
他、整体協会という、
野口晴哉さんが創設された会の会長をしています。
私の伯母が会長をしておりましたものですから。
そのあとを引き受けております。
糸井 ご自分でも整体というのは?
細川 ええ。うちは家族みんなときどき。
少し首が痛いとか、寝違えたとか、
腰が痛いとか言っちゃ、
みんなお世話になっておりますけどね。
糸井さんは、護光
お会いになったことがあるそうですけど。
糸井 そうなんですよ。福森雅武さんのところで。
「誰だか知らないけど、
 かっこいい人だな」と思ったんです。
福森さんが「野焼き」をしているところに
奥様といらっしゃっていて──、
凍えるくらい寒い日だったんですよ。
自分が着てた服を
本当に自然に奥様に
かけてあげていたんです。
脱いじゃった自分は
ものすごく寒い格好だった。
それを見て
「ああいう子が、いるんだな、今でも」
と思って。
護光さんとは、これからも恐らく
何かしらのご縁になると思うんですけど。
細川 昨日たまたま私、電話する機会があって、
「明日、糸井さんがお見えになって
 お話する機会があるんだよ」と言ったら、
「ああ、そう。本当に、
 それはくれぐれもよろしく」
と申しておりました。
糸井 こちらこそ。
護光さんは、今おいくつぐらいなんですか。
細川 37じゃないかな。
糸井 いい頃ですね。
細川 私は素人ですけども、
彼はプロで焼き物をやってまして。
「それにしちゃ、
 なんで素人より売れないんだ」
って、私は言ってるんだけど(笑)。
糸井 なるほど(笑)。
その“素人のお仕事”とおっしゃる
陶芸の作品を、改めてまとめて
写真で拝見しましたけれども、
いやぁ‥‥。
細川 職業として、何かこういうものを
「いつまでに、幾つつくれ」と言われたら、
とてもそんなに上手くいかないんでしょうけど、
別に売れても売れなくてもいいわけで。
適当にやってる中から、
少しはプロの方とは違った
面白みのあるものが
できてくるのかなと思います。
糸井 アートとして一点だけあるものというのは、
例えば梅原龍三郎だとかというものは、
これはこれで素晴らしい
価値としてありますよね。
一方で、大量生産品で、
これと同じものがたくさんあるよ、
というものもあります。
けれども、その間(あいだ)の
豊かさみたいなものが、
ずいぶん忘れられてきてるなぁ、
と思っているんです。
つまり作陶みたいなものというのも、
同じと言えば同じものをつくっているんだけど、
一点ものではないし、
一点ものだし、みたいな。
細川 そうですね。なかなか私、
同じもの、できないんですよ。
また、同じにならないように、
ちょっとわざとゆがめたりしてますので。
あまりやると嫌らしくなるんですけど、
ほんとに自然にろくろから
ぴゅっと切ってちょっと持ち上げたときに、
ちょっと触ってゆがめてみたりするもんですから。
護光のなんかを見てると、
まだわりに真面目につくってるんですよね。
糸井 お父さんのより真面目ですよね。
細川 私のよりはるかに真面目なんです。
糸井 あれはやっぱり歩いてる道が
もう既にプロだということなんでしょうね。
細川 ええ、彼はそう自覚してやってますね。
でも、これはやっぱり性格もあるんでしょう、
どういうものができてくるかというのは。
(つづきます)

 

2010-05-17-MON





この対談のきっかけとなったのが
東京国立博物館で開かれている
特別展
「細川家の至宝 珠玉の永青文庫コレクション」展でした。
この対談を読みながら、ぜひ、おでかけください。
くわしくはこちら

巡回予定
京都国立博物館
平成23年(2011)10月8日(土)〜11月23日(水・祝)
九州国立博物館
平成24年(2012)1月1日(日・祝)〜3月4日(日)

「いやぁ、思っていたより、
 ずっとずっとおもしろかったです!
 おそらくだけれど、目玉展示が選びにくいので、
 満員にはなりにくいような気がする。
 通り過ぎてしまうような場に、
 おもしろいものがあったりね。
 音声ガイドが、(必)だと思えば、
 ちょうどよいかも」(展覧会を観た糸井重里)



細川護熙さんとの対談が行われた「永青文庫」は
東京・目白の、細川家屋敷跡に位置しています。
細川家伝承の歴史資料や美術品などを管理保存し、
一般公開も行なっています。
6月20日(日)までは、春季展示
「細川家の明治・大正」がひらかれていますので
こちらにも、おでかけください。
隣接する庭園も、すてきですよ。
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