糸井 | 「本業」と「食べていくこと」って、 重ならなくてふつうなんですよね。 たとえば、役者が仕事になってる 音楽家の人ってめずらしくないですし。 |
白岩 | ああ、そうですね。 |
糸井 | 思えばそういうのって不思議ですよね。 本人が思いもかけないようなもので 食えるようになったりするじゃないですか。 なんていうか、その人なりの 「食えるパフォーマンス」みたいなものが 才能とは関係なくあるんでしょうね。 |
白岩 | その意味では、小説を書くことを 「食えるパフォーマンス」に したいなぁと思ってるんですけど。 |
糸井 | そうですよね。でも、たぶん、 それを第一に考えていると ずれていったりするんだろうなぁ。 |
白岩 | ああ、そうか。 |
糸井 | たとえば、それで食べていくために、 「いまウケてる小説とは?」みたいなことを リサーチしはじめちゃったりすると、 さっきの「雲の写真」と同じで、 ダメになっちゃうんだと思うんですよ。 |
白岩 | そっかー。難しい(笑)。 |
糸井 | 難しいよー。 でも、きみは考えはじめちゃったんだから 最後まで考えなさい、ってオレは言う(笑)。 |
白岩 | はい(笑)。 絶対、考え続けるとは思うんですけど。 |
糸井 | ま、でも、白岩さんは、 ラーメンにね、なにものせたくない限りはね、 絶対食えますよ。 |
白岩 | あ、そうですか。 |
糸井 | うん。チャーシューのせたいとか、 ワインも注文したいとか言い出すから、 食えなくなるんで。 |
白岩 | じゃ、なにものせないタイプの いまの若い人はみんな、食えるんですか? |
糸井 | うん。 |
白岩 | そういう可能性持ってる。 |
糸井 | ぼくはそう思います。 |
白岩 | おー、すごくそれは勇気が出るというか、 希望を持てる言葉ですね。 |
糸井 | たぶん、ね。 |
白岩 | たぶん(笑)。 |
糸井 | ラーメンになんにものせないで 生きてくっていうのは、 きっとこれから、おもしろいぞ。 |
白岩 | おもしろいですか? そんなに? |
糸井 | きっと、のせない人であるがゆえに 友だちが増えたりもすると思うんですよ。 |
白岩 | そうですね。 横のつながりみたいなものは、 たくさんできていけばいいなと 思ってるんですが。 |
糸井 | そういうつながりが重要になっていく 世の中になるといいですよね。 ぼくは、自分のこととは無関係に、 詩人が食っていけるようになれたらいいな っていう夢があるんですよ。 詩人って、いちばんすごいんじゃないかと 常々思ってるんですけど、 やっぱり食えないですよね。小説以上に食えない。 たぶん、きちんと食べていけてるのは 谷川俊太郎さんだけで、あとの詩人たちは 詩を応用したようなかたちで食べている。 吉本隆明さんなんかも、 完全に詩を応用した人だと思うんですよ。 詩人としての感性でマルクスを読んでいく、 みたいな道を進んでるんじゃないかと思う。 |
白岩 | そうかもしれない。 |
糸井 | 乱暴な言い方だけど、 詩人が食えるようになったときに、 なにもかもがうまくいくんじゃないかなぁ。 それを自分の仕事として、 なにか手伝いたいなっていう気持ちはある。 なんか、食えるっていうことについて、 ちょっと先回りして考えすぎかもしれないけど。 |
白岩 | (笑) |
糸井 | まぁ、あんまり考えすぎてもね。 食ってく心配については、 ちょっと保留にしといた方がいいかな。 |
白岩 | そうですね。 じゃ、もう、自分の思うように。 それこそ、あんまり、考えずに。 |
糸井 | たとえば小説のかたちじゃなくっても、 なにか、書きたいときに 書けばいいんじゃないですか? |
白岩 | そうですねえ‥‥。 いまパッとは思い浮かばないですけど。 |
糸井 | いや、ぼくもよくわかんないですけど。 |
白岩 | (笑) |
糸井 | ま、考えながら。 |
白岩 | はい。今日はこう、 「食べていく」というテーマが ぐるぐる回りましたね(笑)。 |
糸井 | 余計なこと、いっぱいしゃべったような。 |
白岩 | とんでもない。ありがとうございました。 自分の書いた小説について、 外側から本質を突かれたっていうか 言い当ててくださったような感じがあります。 |
糸井 | ああ、それはよかった。 あの、ぼくはずっと前に詩みたいなものの中で、 「ホームランになりたい」って 書いたことがあるんです。 ホームランバッターにでもなく、 ホームランボールにでもなく、 「ホームランになりたい」って。 |
白岩 | 「ホームランになりたい」。 |
糸井 | うん。王貞治になりたいっていうんじゃなく、 ホームランになりたい。 つまり、銃弾が撃たれたとき、 弾丸がなくても、 その弾が飛んでいったっていう事実があったら、 それになりたい。 その「こと」になりたいんです。 それが、いちばん、 ウソじゃない気がするんですよ。 その「ホームランになりたい」にね、 似てると思うんです。この小説は。 |
白岩 | ああ、『空に唄う』が。 |
糸井 | ええ。 だからぼくは、おもしろく読めたんでしょうね。 |
白岩 | そっかー。「ホームランになりたい」。 もういっぺん、 自分で読み直してみようかな(笑)。 |
糸井 | いやぁ、久々に、若い人と話した気がする(笑)。 |
白岩 | ほんと、ありがとうございました。 おもしろかったです。 |
糸井 | いつもは、京都にいるんですか? |
白岩 | 京都にいます。 |
糸井 | じゃ、京都で会いましょうか(笑)。 |
白岩 | あ、ぜひ。 また、お話しさせてください。 |
糸井 | こちらこそ、よろしくお願いします。 それにしても、25歳かぁ‥‥。 うちの最年少の社員より若いぐらいですね。 |
白岩 | 最年少が25ぐらいなんですか。 |
糸井 | うん。 |
白岩 | へぇー。 |
(白岩玄さんと糸井重里の話は今回で終わりです。 最後までお読みいただき、ありがとうございました。) |
|
2009-08-06-THU |