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写真家の菅原一剛(イチゴウ)さんは、
若くしてフランスの『ELLE』誌でデビューし、
かずかずの広告写真を手がけてきた人。
2004年には作品がフランスの国立図書館の
パーマネント・コレクションに選ばれ、
「湿板写真」という140年前の技法をつかった作品では
2005年にニューヨークのギャラリーからデビュー。
世界的な活躍をしているかたなんです。
そんな菅原さんにお願いして、
「ほぼ日」で写真のワークショップを
開いてもらうことになりました。

いえ、むずかしいことは言いません。
いまって、みんながカメラを持っていて、
ほんとに誰でも写真を撮ってますよね。
でもなかなか「いいなぁ!」って
思える写真を撮るのってむずかしい。
みんながもっと気軽にたのしみながら、
いい写真が撮れるようになるコツを、
菅原さんにやさしくていねいに教えてもらおうと思います。

だいじにとっておきたくなったり、
「いいぞ!」「見て見て!」って
ともだちに自慢したくなるような写真が
きっと撮れるようになるはずですよ!

(菅原一剛さんの代表作は、こちらをごらんください
もっとくわしく菅原さんのことを知りたいかたはこちらをどうぞ!)



【“写真を観る”編 第11回】
ロバート・メイプルソープ (1946〜1989)
Robert Mapplethorpe



写真集「Pistiis」より
(クリックすると拡大します)


今回は、この連載においても
ひとつの区切りとして、
ぼくにとっても、いろんな意味で
大きな影響を与えてくれている写真家
「ロバート・メイプルソープ」のお話しをします。

その個人的な体験をお話しすると、
それこそ、とても長い話になってしまいそうなので、
今回は、あえてその部分は省きますが、
とにかく、写真を始めた頃のぼくに、
(その詳細がわからないと
 少し不思議に感じるかもしれませんが、)
もっとも強く、“写真の魅力”を教えてくれたのが、
今回お話しするメイプルソープの写真です。

メイプルソープは、1946年ニューヨーク郊外の
ロングアイランドの厳格なカトリックの家庭に生まれます。
そして、多くの子供たちと同じように、その自由な感じに憧れて
最初はミュージシャンを目指します。
やがてメイプルソープは、身の回りのものを
コラージュしながら、作品の制作を始めます。
しかしその時に、使用していたカメラといえば、
ポラロイドのみでした。

その後、マンハッタンに移り住んだメイプルソープは、
美術コレクターのサム・ワグスタッフ氏と知り合い、
彼と共に、19世紀から20世紀の写真の収集を始めます。
そして1976年に、彼から“ハッセルブラッド”という、
正方形のフォーマットのカメラを
プレゼントしてもらったことをきっかけに、
本格的に、写真を撮り始めるようになります。
そして、その2年後の1978年に
ニューヨークの有名画廊
“ロバート・ミラー・ギャラリー”にて、
デビューを果たします。

メイプルソープの写真の最大の魅力とその特徴は、
持ち前の高い美意識と、
それまでの写真とは、まったく異なる
“新しい視点”が、そこにあったことなのではないかと
ぼくは思っています。
その新しい視点とは、誤解をおそれずに言うならば、
“写真”という平面の世界の中で、
“彫刻的な視点”をもって写真を撮っていたということ。
それに加えて、もともと持ち合わせていた
美術的な美意識と、ゲイカルチャーが渦巻く
あの時代のニューヨークという街とシンクロしながら、
メイプルソープは、時代の寵児として、
次から次へと、“新しい写真”を生み出していきました。
今回、メイプルソープのことをお話しするにあたって、
改めて、回顧録を読み返してみましたが、
やはり、メイプルソープという写真家は、
すべてにおいて、表裏一体というか、
むしろ、その表と裏の“間”で、
常に大きくゆれていたようです。
たとえば、ある側面から見ると、
「とにかく向上心が強くて、嫌なやつ」
そして一方では、
「愛情に飢えた、心優しいひと」といった具合に、
彼に対する評価も、様々だったようです。
それは、彼が撮る写真にも如実に表れています。
だから、この世のものとは思えないほどに
美しい花の写真もあれば、
目を覆いたくなるほどに
グロテスクな写真もあるのです。
しかし、その両方が、彼にとってみれば、
そのどちらもが、きっとかけがえのない
本当の現実だったのではないでしょうか。
だから、そんなメイプルソープの写真を観ていると、
一般的にとらえられているところの
”きれいなもの”と、
”きたないもの”の間で、
”美しいもの”ということを、
何よりの支えとして、さまよっている
彼のすがたが浮かび上がってきます。
特に、セルフポートレイトなどは、
しっかりと、その事実が写っているように思うのです。

最初にお話ししたように、
個人的な思い入れが強いこともあって、
なかなか一度に上手くお話しすることは
とても難しかったりするのですが、
今回みなさんに、そんなメイプルソープの写真を
ぜひともこのタイミングで観て欲しいと思ったのは、
もう一度改めて、
“写真を撮る”ということは、
“ものを見る”ということなのだということを
知って欲しいなあと、思ったからなのです。

彼の写真は、“クール”ではない。

では、彼が常に探し続けていた
“美しいもの”というのは、
いったいどのようなものだったのでしょうか。
もちろん“美しい”ということは、
単純にひとくくりに出来ないことだったりしますよね。
たとえば、とてもほのぼのとした
“あたたかい美しさ”もあれば、
最近では、“クール”なんて言うように、
“つめたい美しさ”もあると思います。
しかし、ぼくは、本当に“美しいもの”というのは、
人々を高揚させる“あたたかい印象”を
持っているのではないかと、いつも感じています。
誰だって、“すごくきれい”と感じる瞬間というのは、
ただ表面的なことだけに反応して、
“美しい”と、感じているわけではありませんよね。
それは、メイプルソープだって
同じだったのではないでしょうか。
だからこそ、特に彼が撮った花の写真などは、
それぞれの好みの問題を抜きにしても、
圧倒的な強さを持って、
存在しているのではないでしょうか。

そんなメイプルソープは、
1978年には、写真家で初めて
“ホイットニー美術館”で展覧会を開催します。
ニューヨークではもちろんのこと、
世界の美術シーンにおいて大いなる成功を収め、
様々な人々が、今でも、メイプルソープについて
その美術的な側面から、評論を繰り返しています。

しかし、少なくともぼくにとって、
メイプルソープという写真家は、
美術的な写真を撮り続けた写真家というよりも、
とても正直で、まっすぐで、とても人間的な写真家だと、
その写真に、ゆっくりと正直に向かい合っていると、
いつも、そんな風に思うのです。
それ程に、彼の作品は、しっかり観れば観るほどに、
その写真の中から、その方法論も含めて、
「なぜこの写真を、こうやって撮影したのか」ということの、
大いなる必然を感じることが出来るのです。

そしてきっと、メイプルソープは、
だからこそ、まだまだ悩んでいたはずです。
ところが、残念ながら彼は、
あまりにも正直に生きたこともあって、
そんな綱渡りの中で、
足を滑らしてしまったかのように、
自らの命を、エイズという病で失ってしまいました。
今となっては、それだって、彼が人間的であることの
ひとつの証明のような気もするのですが、
いずれにしても、未だに多くの人々が
彼の写真を賞賛し続け、
多くの写真家に影響を与え、
多くの人々を、魅了し続けています。
それは、やはり彼の写真の独特の美しさが、
とても人間的で、
あたたかいものだからだと、ぼくは思います。

ぼくも今でも、
彼の写真から、写真に対する姿勢から学ぶことは、
まだまだたくさんあると思っています。
もちろん、写真にはいろんな写真があって、
そのかたちは様々で、それはそれでいいのですが、
ぼくは、そんないろんな写真がある今だからこそ、
正直に“ものを見る”ということから、
本当の“新しい写真”が生まれるという事実を、
メイプルソープの写真を観ることで、
もう一度改めて、知って欲しいと思っています。

そして、みなさんにも、
“何となく何かに似ているような写真”ではなくて、
“あなたならではの写真”を
一枚でも多く、撮って欲しいと思っています。
そのためにも、とにかくたくさん
写真を撮り続けていきましょうね。


2005年、グッゲンハイム美術館において開催された
企画展「Robert Mapplethorpe And The Classical Tradition:
Photographs and Mannerist Prints 」
と同時に出版された図録的写真集
(クリックすると拡大します)




写真家を知る3冊



『Robert Mapplethorpe
Whitney Museum of Arts』


文中でも紹介した1989年にホイットニー美術館で
開催された写真展の図録的な写真集です。
回顧的な写真展だったこともあって、
その全貌を知るには、とっておきの一冊です。



『Pistils』

「花」のシリーズが、とにかく美しく編集された写真集。
その方法論も多岐にわたる様子や、
また、そのことで、伝わってくるものがたくさんあって、
おすすめの一冊です。



『Robert Mapplethorpe
And The Classical Tradition:
Photographs and Mannerist Prints』


2005年にグッゲンハイム美術館で開催された
企画展の図録写真集です。
その展示方法も、とても秀逸だったのですが、
この写真集を観るだけでも、
メイプルソープが、いかに美術の文脈の中での
写真を考えていたのかが、よくわかります。



作品をGoogleイメージ検索でさがす




「ほぼ日」より、おしらせです。

いつも「写真がもっと好きになる。」をご愛読いただき、
どうもありがとうございます。担当の武井です。

今回の「メイプルソープ」の回をもちまして、
「写真がもっと好きになる。」は、
いったん、中締めです。
でも、終了というわけではありません。
「ほぼ日」では、菅原さんといっしょに
「これまでの全60話をもとにして、
 新しい『写真の本』をつくりましょう」
ということを、かんがえています。
そのため、菅原さんには
連載をちょっとお休みいただいて、
いっしょに本づくりに
かかわってもらうことにしました。

携帯電話にカメラの機能がついて、
それを使うのがあたりまえみたいになっている時代。
デジタルカメラをもつ人もふえましたし、
もちろん昔ながらのフイルムカメラを
使っている人もいて、
ほんとうにたくさんの人が写真をとっています。
あんなに写真が苦手だった糸井重里まで、
写真の連載をしている、
そんな今の「ほぼ日」だから、
つくることができる「写真の本」があるはず。
写真がうまくなるかどうかは、わからないけれど、
写真がもっと好きになる本。
どうぞ、ご期待ください。

2007年3月9日 担当:武井義明

菅原一剛作品展
「あたたかいところ」
-Made in the shade-

ニューヨークのギャラリーで展示した
大ガラスの作品の日本で初めてのプレビューが、
下記2ヶ所で行われます。

■ "reed space."
 〒107-0062
 東京都港区南青山6-4-6青山アレー1F
 tel.&fax 03-6804-6973
 http://www.thereedspace.com/

 期間:2006/12/16/Sat〜2007/1/30/Tue


■LEVI'S VINTAGE CLOTHING
 〒107-0062
 東京都港区南青山5-2-11
 tel. 03-5774-8083
 http://www.lvc.jp/

 期間:2006/12/12/Tue〜2007/3/12/Mon



2007-03-09-FRI

第0回 明日から始まるこのコンテンツについて。
第1回 写真の始まりは、いつもお散歩。
第2回 ゆっくりものを観てみよう。
第3回 びくびくしながらも、真正面。
第4回 光を観るために、空を撮る。
第5回 ほんとうに正しい、カメラの選び方。
第6回 何が何でも、失敗は成功のもと。
第7回 上を向いて歩こう。
第8回 アングルを意識しながら、撮ってみよう。
第9回 目に入ったものは、全部撮ってみよう。
第10回 ファインダーを覗いてみないと、
見えないものもある。
第11回 近づいてみないと、見えないものもある。
第12回 時にはフイルムを使って、贅沢を知る。
第13回 マジックアワーを知っていますか。
第14回 写真のために、まわり道をしてみよう。
第15回 何に対しても、
話しかけるように撮ってみよう。
第16回 桜の花びらが、はらはらと散る理由。
第17回 誰にでも、必ず大切な写真はある。
番外編 東京観光写真倶楽部撮影会
秋葉原編
第18回 写真はカメラが撮るものではなくて、
レンズが撮るもの。
第19回 きっと、偶然なんてものはない。
第20回 スナップ写真を、
ゆっくりたくさん撮ってみよう。
番外編 展覧会のおしらせです。
第21回 光の色を意識しながら、
撮ってみよう。
番外編 シンガポール展レポート The Bright Forest
at epSITE Gallery in Singapore
第22回 デジカメなんか嫌い、でもデジカメも好き。
第23回 目に見える光と、目に見えない光。
第24回 写真は、決して止まっていない。
第25回 写真と水の親密な関係。
第26回 黒にもいろんな黒がある。
第27回 青という色は、はじまりの色。
第28回 いろんなカメラ、いろんなレンズ。
第29回 はじめてのライカ。
第30回 いちまいの写真は、
ひとつのドアみたいなもの。
第31回 写真集を“読んで”みよう
番外編 東京観光写真倶楽部
浅草撮影会レポート
第32回 自分だけの写真集を作ってみよう。
第33回 海に映る光は、半分の光。
第34回 “標準レンズ”で見える、大切な“ふつう”。
第35回 気配を写す“広角レンズ”。
第36回 視点を写す、“望遠レンズ”。
第37回 適正露出って、何だろう。
第38回 すべてのものごとは、
写真と共につながっていく。
第39回 紅葉の色は、光の色。
第40回 雲が光る瞬間を、 追いかけてみよう。
第41回 カメラ付き携帯電話の楽しい使い方。
第42回 プリントしてみないと、わからないこともある。
第43回 メイ・アイ・テイク・ユア・ピクチャ?
第44回 あなたの“白”は、どんな色?
第45回 写真は、けっして四角くない。
第46回 三脚のすすめ。
第47回 一台のカメラと一緒に、旅に出よう。
第48回 もう一度、改めて
モノクロで撮ってみよう。
第49回 最後のコダクローム。
“写真を観る”編
第1回 ダイアン・アーバス (1923〜1971)
Diane Arbus
第2回 アンリ・カルティエ=ブレッソン (1908〜2004)
Henri Cartier-Bresson
第3回 ロバート・フランク (1924〜)
Robert Frank
第4回 ウイリアム・エグルストン (1939〜)
William Eggleston
第5回 アルフレッド・スティーグリッツ (1864〜1946)
Alfred Stieglitz
第6回 フェリックス・ナダール (1820〜1910)
Felix Nadar
第7回 ロバート・キャパ (1913〜1954)
Robert Capa
第8回 ウジェーヌ・アジェ (1857〜1927)
Eugene Atget
第9回 エドワード・ウェストン (1886〜1958)
Edward Weston
第10回 マヌエル・アルバレス・ブラーヴォ (1902〜2002)
Manuel Alvares Bravo




菅原一剛さんのくわしいプロフィール
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