1101

ほぼ日事件簿
こんなことでした

小野田寛郎さんのテレビ番組を見て。

糸井重里です。

『実録・小野田少尉 遅すぎた帰還』というテレビ番組を、
ぼくは、ぜひ見ましょうと紹介しました。
いくつか理由はあるのですが、
小野田寛郎さんという人の、
どういったらいいんだろう、無形文化財みたいな魅力を、
みんなに伝えたかったという気持ちが、まず第一でした。
いま、「ほぼ日」で
『法隆寺へ行こう!』という連載をやっていますが、
その「法隆寺」や、
法隆寺をつくった、昔むかしの無名の大工さんたちを
なんとか伝えたかったのと同じように、
「こんな人がいるんですよ」と、
知って欲しかったのでした。
そして、もうひとつが、戦争というやつのことです。
銃器や火器がたえず煙をあげているのが、
一般的な戦争のイメージかもしれませんが、
そうでない時間のほうが、
激しい戦闘の何万倍もあるわけですよね。
その、戦争中ではあるけれど、何も起こってない時間。
何も起こってないようで、平和ではない、戦争の時間。
そういうものが、小野田さんの物語のなかには、
出てこざるを得ないわけで、
そいつを、いつも「ほぼ日」を読んでくれる人たちと、
いっしょに感じたいなぁと思ったのでした。

で、よかったら見ての感想をください、と記したら、
メールをたくさんいただきました。
同じような意見がたくさんありますので、
たくさんのカットも含め編集させていただいて、
ここにご紹介させていただきます。
感想を送ってくださった方々、すいません。
そして、ありがとうございました。

=
何と言うのか・・・
今、まっさきに思うことは、
大事な人の幸せを願う気持ちには
これっぽっちも理由がない、ということです。
無事に帰って欲しい、幸せであって欲しい・・・
そんな気持ちには理由なんて無くて、
ただ願うのだということ・・・
その人の言葉に身も切れるような辛さを抱く。
そこには、「〜だから悲しい」
なんていうのは無いんだなあと、
劇中の八千草さんが、中村獅童さんから、
「戦場でいつでも戦えるように斜面で寝ていた」
と言う話を聞いた時にされた表情を見て
ひしひしと思いました。

人の思いの強さ、尊さを何よりも一番に感じました。

(きよみ)

いちばん最初に届いたのが、
この「きよみ」さんのメールでした。
ぼくも、「理由」を探しすぎると消えてしまうものが、
たくさんあると思っています。
「理由」を探し当てなくてもわかることがあるのに、
「理由」にとらわれてしまうと、わからなくなってしまう。
そういうことが、あると、ぼくも思います。

=
最後に小野田さんのお写真が映っていくと、
お顔がどんどん変わっていかれて、
なにかこう生きててよかったと、
楽な気持ちになって
息ができた感じです。
TVなので匂いや暑苦しさは
想像するしかないのですが、
生きていらっしゃった心と身体の強さにも
あこがれます。

あ、競馬好きなので
ラジオの中継に笑いました。
昭和何年なのか
うっかり聞き漏らしてしまったので
結果がわからないままですが。

(かねきゅー)

「息ができた感じです」に、共感しました。
いまの小野田さんにお会いしたら、
もっと「息ができた感じ」になりますよ。
あ、そうだ。
『小野田自然塾』に参加したhsさんから、
追加のメールが届いたんです。
これ、長いんですが、紹介させてください。
「希望」ということばを感じると思いますよ。

=
前のメールでは、
自分の楽しかった事ばかりを書きましたけど、
子供さん達が興味を持ってくれそうなことを
少し補足で書き足しますね。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

まず、いろんな虫が取れます。
薄緑色のきれいな羽の蛾や、
オニヤンマ、カブトムシ、
ミヤマクワガタなんかもいました。
トンボは何故か警戒心が無いようで、
みんな素手で簡単に取ってました。
草の中に分け入って、
バッタやカマキリを捕まえたりも出来ます。

樹齢400年以上のイチョウの木を見に行ったり、
聴診器で木の音を聴いたりもします。

子供達とリーダーだけで、
深い森の中で一泊するというのもありました。
今回のキャンプでは、丁度その夜に限って
大雨、雷、地震と重なったのですが、
それを乗り越えて、子供達はすこし自信をつけたようです。

子供も鉈で薪を割り、火を起こし、野菜を切り、
川で洗い物をし、調理をし、といった事をします。
自然を汚さないように、洗い物は洗剤ではなく
山で取れたきれいな砂を使って洗うんです。
大人も子供も、皆で協力して食事を作っていきます。

それに何より、新しい友達が出来るのがいいですね。
うちの子供にもキャンプでの友達から早速手紙が届き、
「また来年もキャンプで会おうね」と
返事を書いたりしています。

子供達にとって、とてもいい経験、思い出になりますよ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
スタッフの人から聞いた話なのですが、
小野田さんは今でもものすごく研究熱心だそうです。
今回のキャンプでは、
ジャングルの中で小野田さん達が作っていたのと
ほぼ同じ乾燥肉を作ったのですが、
今撃ったばかりの牛の肉を
フィリピンのジャングルの中で乾燥肉にするのと、
殺してから時間の経った肉を
夏の日本の森で乾燥肉にするのとではやはり違うそうです。
どうすれば一番よくなるか、
最適な火加減や乾燥させる時間を知る為に、
小野田さん自身が事前に試行錯誤していたそうです。
(中途半端な物しか出来ないようなら、乾燥肉作りは中止。
 中止にしないよう、なんとしても納得のいく物を
 作ろうとしていたそうです)

キャンプではほんの少し聞いただけなのですが、
小野田さんのブラジルでの開拓の話も、
とても勇気付けられるような話でした。
ジャングルの中だけではなく、
ブラジルでもすごい体験をされているんですね。

糸井さんが小野田さんとお話をする機会に、
ブラジルでのお話も聞いて頂けると嬉しいです。
(自分ももっとブラジルでの話を聞きたいと思っているし、
  きっと皆が勇気付けられるようなお話になると思うので)

昨夜は家族で小野田さんの番組を観ました。
小野田さんは、自然塾のキャンプではいつも穏やかで、
お話の時も優しい笑顔で子供達に語りかけていました。
そんな小野田さんに接していると、
30年間命を賭けてジャングルの中で戦い続け、
過酷な状況と悲しみを乗り越えてきたのだということを
つい忘れてしまいます。
本当の強さ、優しさは、
目立つようなことも無く、とても自然なんですね。

それでは、また。

(hs)

先にまだまだいろいろあるのだから、
いま何をしようか、やることはいっぱいある。
小野田さんの姿勢には、
希望とか未来とかを感じるんですよねぇ。


=
以前「智慧の実」のイベントで
小野田さんを拝見したときの
背筋の伸びたお姿とあたたかな語り口が
思い起こされて、同じ時代に生きている
人と人として出会えてよかったって
ほんとうに涙がでそうになりました。

中村獅童さんという役者さんの名前が
画面の中ですっかり消えていて
もう小野田さんという名前しか浮かばない
視聴者として幸福な体験をしていました。

このドラマに会えてよかったです。
小野田さんに会えてよかったです。
小塚さんや島田さん鈴木さんに会えて
ほんとうによかったと思いました。

すみません、うまく言葉が綴れなくて。

(もりまりこ)

おなじ時代に、小野田寛郎さんがいる。
そういう思いは、ぼくにも、
なんともありがたい実感として、ありました。
なんでしょうか、それこそ、
大きな樹木に触れたような感じ‥‥。


=
番組終了後、
「ほぼ日」のコンテンツ「智慧の実を食べよう」
を読んで(前に読むと先入観ができてしまいますから)、
ああやっぱり、ルパング島での小野田さんは、
軍人らしく生きることを選んだのだなあと。
ご自分の人生を生きた、究極の自由人
と言えるのかもしれません。

(及川尚志)

この方は、その前の段落で、
「人には流されて生きる自由もありますが、
 自分の社会的役割を全うする、
 筋を通す自由もありますよね」と書いてます。
小野田さんに、あらためてそう訊いてみたい気もしますね。


=
戦争が終わった事を信じず、
ラジオを聞きながらたった3人(途中から2人)で
戦争継続している姿には、何だか悲しい滑稽さを感じ、
反面苛立たしくもあり。
正直、はじめは
私には小野田さんの真意がわからなかったのです。
でも、ラスト10分程で、泣きました。大泣きしました。

小野田さんが待っていた唯一のもの・・・それは、
上官の命令だったのですね。

ラスト、私の頭のなかでは、
勝手に、テーマ曲として、
中島みゆきさんの「世情」が鳴っていました。

「世の中はいつも 変わっているから 
 頑固者だけが悲しい思いをする・・・」

(木村礼子)

あのドラマのつくり方は、どうも、
そのあたりにテーマを持ってきていたように思えますね。
中島みゆきさんの曲を重ね合わせるというのは、
すばらしいひらめきだなぁと感じました。
なんだか、小野田さんと、中島みゆきさんには、
なんだかなんとなくですが、似たものを感じるのです。


=
実録…見ました。
じっくり見たかったので、夫とは別々の部屋で見ました。
私は、小野田さんの生存が分かったときには
20歳くらいでしたので、
あのときの衝撃はとても良く覚えています。

ああ、こんな気持ちで頑張っておられたんだ…
生きる智恵は大事だけれど
自分のしていることが空しいと感じたら
こんな状況で長く生き抜くことはできないな…
自分を解放するには、
頑張った分と同じだけの理由が無ければならない、
それが人間としてのプライドなんだ…と
長いこと胸の中に沈んでいた何かが解けていきました。

上官から「賜」の箱
(あれが恩賜のタバコとやらでしょうか)
を受け取ったあと、
戦争用語いっぱいの解除命令を聞いているときは
もう涙が流れてとまりませんでした。
何十年もの緊張から解放されていく瞬間…
戦争は本当に本当に罪深いものですね。

(大阪 井川)

たぶん、ぼくの年齢に近い方だと思います。
「自分のしていることが空しいと感じたら」
たしかに、なにひとつ出来ないです。
小野田さんが帰ってきたあの時代は、
世の中を「空しい」が覆っていたようにも思えます。
不思議な逆説ですけど。


=
実録・小野田少尉、見ました。
今まで、小野田さんをほとんど知らなくて、
戦争終結を知らず、戦い続けた、
命令に忠実で不運な兵隊さんの一人だと
思っていました。(失礼致しました)

でも、違ったんですね。
日本から連絡を持ってくる人たちの言葉を
信じられない、というよりも、
受け入れられるものではなかったんですね。

(佐藤)

実は、ぼく自身も、当時は、
そう思っていたのでした。
しかも、その頃には、
「横井さんは一兵卒だけれど、
 小野田は命令を下す側の士官だ。
 戦争の犠牲者ではなく、戦犯ではないか」
というような発言も、聞えていたんです。
そう軽々しく言った人は、言っただけで済みますが、
言われた人は、それで運命がまた変わっちゃうわけです。
そういう状況もあって、小野田さんは
ブラジルに渡ったのだと思いますけどねぇ。


=
最後の、「30年間で楽しかったことは?」
という問いに、
「何ひとつありませんでした」と
答えた小野田さんが印象的でした。
私は今19歳ですが、
今まで生きてきた時間よりも長い時間、
ジャングルで暮らしていたなんて。想像ができません。
このあいだテレビで見た小野田さんのインタビューで、
小野田さんはずっと笑顔でお話ししていて、
とても30年間もジャングルで暮らしていたようには
見えませんでした。
(失礼な言い方かもしれませんね。すみません)
小野田さんには、これからもあの笑顔で
生きていってほしいです。
今度、小野田さんの本を読もうと思います。
 
(ななこ)

あの「何ひとつありませんでした」という断言は、
ほんとうにすごいと思うのです。
まったく、質問者にも、世間にも、
一切の妥協をしない小野田寛郎という人を、
よく表しているなぁ、と、思います。
「何ひとつありませんでした」と、
あのジャングルから出てきてすぐに、日本で、
表現できる人って、すごい。


=
小野田さんが洒落男で良かった!と、つくづく思います。
自分でも想像し得ない状況に追い込まれても
生き抜いていく意味さえ見失わなければ、
人生はまた巡り、そこに
楽しい事が積み重なっていくのだと、
小野田さんが見せてくれているような気がします。

(斉藤弘美)

たくさんの考察の結語のようにして、
以上のように書かれていたのですが、
ぼくも、「小野田さんが洒落男で良かった!」と、
つくづく思います。
そのことが、とても大事なことなんだと、
いまの小野田さんの笑顔を目にすると思えてくるのです。

さて、こんなところにしておきます。
メールをくださって、掲載されてなかった方、
自分の言いたかったことでない部分を掲載された方、
ほんとうにもうしわけありませんでした。
また、こういった企画、やると思うんです。
そのときも、どうか懲りずにご協力くださいませ。

ありがとうございました。

このページへの激励や感想などは、
メールの表題に「ほぼ日事件簿を読んで」と書いて
postman@1101.comに送ろう。

2005-08-19-FRI

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