LEVI'S THE ARCHIVE Platinum Print Document from strawberry pictures inc. on Vimeo.
東京の桜もそろそろ散り始めました。
早いもので、あっという間に春たけなわです。
何度もお話ししていますが、
この時期の光は、なんとも言えぬほどにキラキラしていて、
まさに写真日和な光。
ぼくも、ファインダーをのぞいているだけでも、
なんとなく、いつもよりもいい写真が撮れそうな気がして、
ちょっとわくわくしてしまいます。
そんな2017年の春ですが、
ぼくは、昨年2度に渡って訪れたサハリンに、
今度はその最北端まで、
流氷が生まれる場所を観たくて、
その氷の海を撮影したくて、
もっともっとたくさんの少数民族の方々にも
お会いしたくて、
再び行ってきたりしました。
そうこうしている間に、
この連載も、少し時間が空いてしまいましたが、
春の光とともに再開しますね。
前回は『蟲師』のお話をしましたが、
今回は、皆さんもよくご存じの、世界的なデニムメーカー、
リーバイス社のとっても貴重なデニムを撮影し、
原寸大のプラチナプリントという、
おそらく世界初ではないかと思えるほどの大きさの
特別な方法でプリントをした時のお話です。
サンフランシスコで生まれたリーバイス社が
創業150周年を迎えた時、
それを記念して、サンフランシスコ本社に保管されている
ヴィンテージ・ジーンズを撮影して欲しい、
という依頼を受けました。
ぼくは、サンフランシスコに向かい、
とても貴重なジーンズを、およそ20点撮影しました。
以前の本社は、大きな火事に遭い、
多くの貴重な資料を失ってしまったとのこと。
そこで、現在は「THE ARCHIVE」という
独自のセクションを設けて、
積極的に、世界中に存在する、
彼ら自身の歴史を集め、保管をしています。
中には、1本数千万円するものもあるそうです。
そんな貴重なものを撮影するのは大変なことですが、
ほぼ毎日、ジーンズを履いているぼくにとって、
リーバイスのジーンズというのは、
子供の頃から慣れ親しんだことも手伝って、
数あるジーンズの中でも、中心的な存在です。
何より現在の、他の多くのジーンズメーカーは、
リーバイスのジーンズを基本としています。
そんな本物のなかの本物のジーンズを撮影するとなると、
改めて、その特別な存在に、
大いなる敬意と興味がわきました。
だったら、とぼくは、
ただ単にジーンズを撮影するのではなく、
そのジーンズを履いてきた人々、
そして、そのジーンズが生まれてきた背景を含めて、
それらを肖像写真のように撮影したいと思い、
このプロジェクトを
『PORTRAITS FROM THE ARCHIVE』と名付け、
写真集にすることを考えました。
そんな撮影は、サンフランシスコの住宅街の中にある
緩やかなデイライトが入ってくるスタジオを使用して、
朝から夕方まで、2日間に渡って行われました。
現在、フイルムを飛行機に持ち込む場合は、
他の荷物と同じように
X線の機械を通さなくてはなりません。
ISO1600までのフイルムであれば大丈夫とのことですが、
なんとなく心配な部分もあったりしますので、
フイルムも現地で購入しました。
そして撮影後、撮影済みのフイルムを
すぐに現像所に持ち込んで、
現像作業も、サンフランシスコで行いました。
モノクロの現像所と、カラーの現像所は、
別々のラボを使用したのですが、
どうやら、この2つのラボは友達同士のようで、
次の日に、現像が出来上がったフイルムを
ピックアップに行ったら、
どちらの現像所からも、
「これ、リーバイスだよね?
モノクロもカラーも、8x10で撮影してるんだね、
すごいね! 最終的には、どんなプリントになるの?」
と質問されました。
そこでぼくは、ネガを見ながら、
「ジーンズの表と裏を、
ポートレイトのように撮影していて、
表ページには表を、裏ページには裏を印刷した
写真集を作ろうと思っているんです。
そして、出来るかどうかわからないけれど、
日本のショップの中に展示するために、
原寸大のプラチナプリントを
作ってみようと思っています」
といったやりとりをし、
「そんなの出来たらすごいね!」
などと盛り上がりました。
‥‥などと、言ってはみたものの、
そんな大きなプリントは、
今までやったことがないわけですから、
撮影して、現像も済んだネガフイルムと共に帰国するなり、
湿板写真をはじめ、様々なプロジェクトで
お手伝いいただいている
プリンターの久保元幸さんに相談して、
まずは、それが可能かどうかも含めて、
ひとつひとつ準備を始めました。
“プラチナプリント”というのは、
おそらく、銀塩写真という言葉を
耳にしたことがあるかたもいると思いますが、
通常のモノクロ写真は、
それこそまさに“銀”を使用します。
それに対して、プラチナプリントは
“プラチナ”を使用するわけです。
その違いというのは、
指輪をはじめとしたアクセサリーでもわかるように、
銀製品は、しばらくすると酸化して輝きを失いますが、
プラチナ製品は、時間が経過しても
酸化という変化は少ないですよね。
実はこの違い、ざっくりとした話をすると、
その粒子の大きさの違いにあるのです。
プラチナの粒子は、銀の粒子に比べると、
圧倒的に小さいため、かたまりになった場合、
粒子そのものが大気に直接触れる部分が減り、
酸化しにくくなるために、腐食変化しないようなのです。
ぼくは、その粒子の細かさを利用すれば、
より鮮明なプリントを作れるのではないかと
考えたのでした。
一般的に言うと、プラチナプリントというと、
プラチナという鉱物が高価なこともあり、
単に高級プリントととらえられてしまう
ところもあるようですが、
少なくとも、ぼくにとってはそんなところに価値はなく、
この時は、ひたすらに、
出来るだけ鮮明にしっかり写して、
それを出来るだけ鮮明にしっかりプリントする。
ただ、そのことだけを考えていました。
写真というのは、プリントというのは、
どこまで行っても平面なのですが、
それでも、少しでも立体的に見える方法が
ないものだろうか、そのひとつの方法として、
プラチナプリントという技法を選んだのです。
ところが、実際に作業を進めようとすると、
まず最初に大きな問題となったのが、
プラチナプリントは、
基本的に密着プリントなので、
原寸大のネガフイルムが必要となります。
そして、そのネガと印画紙を密着させて上で、
しっかりと均一に露光するために、
露光機も必要となります。
ところが、そのための資材も、機材もありません。
暗中模索の中で、
今では割と当たり前になってきましたが、
たまたま、インクジェットプリント用に
透明なOHPのロールフイルムがあり、
そこにネガ像を出力して、ネガフイルムを作成しました。
露光機は、既製品を改造することも検討しましたが、
結局、すべて自ら制作することとなりました。
(そのプロセスを説明すると、
いろいろありすぎますので、割愛しますが、
おもしろいので、ぜひドキュメントビデオを
ご覧ください。)
そうして、原寸大プラチナプリントは無事に完成しました。
今となっては、なんとなく当たり前のことに
なってしまっている
「ただ写真を撮って、ただそれをプリントする」
ただそれだけのことなのですが、
ただそれだけのことに対して、
ぼくらはとてつもなく大げさで、
とてつもなく面倒な方法を選択したことになります。
だからいいのだなどという話をするつもりは、
まるでありませんが、
それでも今、こうやってぼく自身で、
そんな写真行為を振り返ってみると、
そこには、写真を撮るというだけではなく、
ものをつくるというたくさんの楽しみが
詰まっているような気がしますし、
その楽しみが、プリントの中にも宿っているかのように
感じることが出来ます。
きっとその方法は、
現在のようにデジタルというプロセスが加わったことで、
もしかしたら、より一層無限大に
存在しているのかもしれませんが、
改めて、だからこそ、方法論であったり、
スペックだったりだけが先行しないように、
常に被写体という相手のことを中心とした
本来の写真を、楽しくやっていきたいなあと
思っている今日この頃です。
2017-04-13-THU
400年の歴史を持つ「雲母唐長 KIRA KARACHO」の
唐紙師トト・アキヒコ氏制作の唐紙に
プリントした屏風形式の作品を展示します。
初日の4月15日14時より、
トト・アキヒコ氏、久保元幸氏と共に
トークショーがあります。
お近くの方は、お申し込みの上、お越しください。
くわしくはウェブサイトをごらんください。
同じく、4/15 19:00-19:54、
葉加瀬太郎さん司会の旅番組
「ANA WORLD AIR CURRENT」にゲスト出演します。
久しぶりに、パリのお話をします。
10年間、ライカ銀座店における
プレミアムプリントを担当したプリンターの久保元幸さんが
プリントしたエリオット・アーウィットの
プラチナプリント展と同時開催というかたちで、
隣のプロフェッショナルストアにて、
セイケトミオさんと共に1点出展しています。
LEICA M8というカメラで撮影した桜の写真ですが、
あのカルティエの三連リングにヒントを得て、
プラチナに金調色を加えた、
ピンク色のプラチナプリントです。
是非ご覧ください。
菅原一剛さんが写真家としてスタートしてから
約28年。
2013年に至るまでの作品群を集約した、
箱入り2冊セットの写真集です。
「Daylight」では2000年代に発表された
「Amami」「Komorebi」そして「Tsugaru」を、
「Blue」では1990年代に発表された
菅原さんの代表作ともいえる「Norway」「Nara」
などの作品を収録しています。
菅原一剛の写真家としての軌跡がわかる、
集大成的一冊です。
ビー・エヌ・エヌ新社
大型本 68ページ
定価:6,300円(税込)
くわしい情報はこちら
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プロに近づく技術的に上手な写真‥‥ではなく、
ともだちに見せて「いいなぁ!」って
思ってくれるような写真を撮りたい。
そのために知っておきたいこと、
ちょっとしたコツなどを、
専門誌とはまったくことなる視点から、
菅原一剛さんが解説します。
第1章 カメラと一緒に歩いてみよう。
第2章 あなたの思いは、きっと写ります。
第3章 ゆっくりものを見てみよう。
第4章 ちょっと不思議な写真のしくみ。
第5章 写真は、ひとつの大切な“もの”
第6章 季節の光の違いを写してみよう。
第7章 正しいカメラとレンズの使い方。
第8章 ケータイだって、写真がもっと好きになる。
ソフトバンククリエイティブ
256ページ オールカラー
定価:1,680円(税込)
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「写真を観る」ことに焦点を合わせた一冊。
「正直なところ、写真のどこを
どう観たらいいのかわからない」
「写真を観て、なぜか感動したのだけれど、
なぜなんだろう」
「いっしょに観ているともだちと、
その写真のよさを言葉で共有してみたい」とうかた、
ぜひ、本書を読んでください。
巨匠と呼ばれる写真家たちがカメラをかまえて、
シャッターを押したときの、その気持ち、その瞬間。
菅原一剛さんの目は、そんな時間や場所、
そして彼らの人生に思いを馳せます。
写真というものがもつ、ゆたかな背景を、
ぜひ本書で体験してください。
第1章 ロバート・キャパ
第2章 アンリ・カルティエ=ブレッソン
第3章 ダイアン・アーバス
第4章 ウイリアム・エグルストン
第5章 ウジューヌ・アジェ
第6章 マヌエル・アルバレス・ブラーヴォ
第7章 フェリックス・ナダール
第8章 土門 拳
第9章 田淵 行男
第10章 アルフレッド・スティーグリッツ
第11章 エドワード・ウェストン
第12章 岩宮 武二
第13章 ロバート・メイプルソープ
第14章 ヨゼフ・スデク
第15章 小島 一郎
第16章 ロバート・フランク
ソフトバンククリエイティブ
240ページ オールカラー
定価:1,680円(税込)
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菅原さんが2002年から取り組むプロジェクト
「今日の空」。
これは、菅原さんが出かけた先で、
毎日空の写真を撮影し、
エッセイを添えてネット上に公開するというもの。
本書は、2011年12月31日までに
撮影された3650枚から
選りすぐりの写真を収載しています。
また、「今日の空」プロジェクトは
iPhone用の写真アプリケーションも
開発されています。
くわしくはこちらをどうぞ。
ソフトバンククリエイティブ
272ページ オールカラー
定価:1,890円(税込)
Amazonはこちら